7兆円買収を強行する、武田ウェバーの焦燥 国内史上最大の買収に募る「不安」と「課題」

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こうした点以上に、日本企業が欧州企業を買収するため、新株を発行して対価に使うことが可能なのか、という問題が残る。

M&Aに詳しい、早稲田大学大学院の服部暢達・客員教授は「日本の会社法上は大きな問題がある」と言う。

買収対象に高い価格をつけて、その価格に見合う条件で新株を交付するのは、既存株主の立場からすると新たな株主に対してだけ有利な条件で新株を発行することになりかねず、武田の株主総会における特別決議での承認が必要になる。

さらに武田が引き取るシャイアー株が現物出資と見なされ、裁判所が選任する検査役の調査が入り、過大評価だと認定されればアウトになるおそれがある。また日本の武田株とシャイアー株を直接交換するのは実務的に困難なため、欧州に作る武田の子会社に親会社株を一時的に保有させ、それをシャイアー株主のシャイアー株と交換する形が考えられる。

2007年施行の改正会社法では、子会社が親会社の株を一時的に持ち、それを消滅会社との合併に使う、いわゆる米国型三角合併方式を可能にする道が開けたが、こうしたスキームは(三角合併のない)欧州企業へのTOB(株式公開買い付け)でシャイアーを子会社化するスキームについては、日本の会社法が子会社による親会社株の保有を原則認めていないことがネックになる。

服部教授は「産業競争力強化法の条項を利用するのではないか」と指摘する。現行の産強法でも公開買い付けなら上記の問題はすべて解決する。

さらに現在、国会で改正案が審議中のこの法案を利用すれば、スキームオブアレンジメントという75%以上の議決権を保有する株主が使用する特別な制度での100%完全買収(TOBだけでは100%の株は集まらない)でも経済産業大臣が法律に準拠し認めれば新株を外国企業買収に使うことが可能になるという。

ウェバー社長を買収に駆り立てる焦燥

武田は「財務規律の維持などが買収の前提」と説明するが、シャイアー買収に向けた動きはまさに“前のめり”だ。莫大なリスクを背負ってでも買収に動く背景には、武田を率いるCEO(最高経営責任者)のクリストフ・ウェバー社長の焦りもあるだろう。

ウェバー氏は英グラクソ・スミスクラインからヘッドハントされ、14年4月に武田のCOO(最高執行責任者)に、同年6月に社長に就任。その後、2015年4月からCEOに昇格した。その間の純利益は2015年度は801億円、2016年度は1149億円、2017年度は1650億円(『会社四季報』予想)にとどまっている。

その中身もこの2期は1000億円以上の資産売却益やコスト削減の成果に頼る部分が大きく、本業の医療用医薬品での利益創出力はまだ弱く、その水準もアステラス製薬など国内ライバルの後塵を拝し続けている。

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