エリート官僚がセクハラを否定する思考回路 心と頭の知能指数格差が「ひずみ」を生み出す

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それだけ"悪評"が高い人物であることを周囲が認識していなかったということはないはずで、悪癖を知りながら、取材を続けさせたメディア各社、さらには、そもそもそういった人物を次官という枢要ポストに据えた政府の責任は非常に重い。

官僚と記者との頻繁なこうした飲みニケーションの背景にあるのは、2000年に設けられた国家公務員倫理法によって、官僚が役所以外の人たちと飲みに行くことが難しくなっているという事情もある。

公務員倫理法では、利害関係者の負担による飲食が禁止されるなど、さまざまな制約がある。その一方で人事院の規定によると、「取材活動をしている記者は一般には利害関係者に該当しない」とされている(ある種の利害関係者であるともみなすことができるため、ここにメスを入れる必要があるかもしれない)。

そのため、記者との懇親の場を"気晴らし"のように利用する不良官僚も多い。「利害関係者ではないのだから記者になら、おごってもらっても問題はない。どうせ経費で落ちるんだろう」と会計時に財布を出す気配さえない官僚もいる(実際には自腹を切っている記者が多いのだが……)。

この結果、官僚たちは省外の人たちとの付き合いが極めて限られた「金魚鉢のような狭い世界」でのコミュニケーションの中で、メディアとの一種の共依存関係を深めてしまっているところがある。

「密閉空間」で生じる倒錯的思考

取材相手が嫌なら、会わなければいい、という声があるが、記者と取材先というのは、上司と部下、企業と取引先との関係性に似て、自由意思で取捨選択しにくいところがある。そうしたある種の「密閉空間」の中でのコミュニケーションを続けるうちに、福田次官はある種の倒錯的思考にとらわれるようになったように見える。

「全体をみればセクハラに該当しないことは分かるはずだ」という彼の言い分の裏側にあるその思考とは、「相手も自分のことが好きなのだから、これは一種の疑似恋愛的なやり取りの一部である」という勝手な思い込みではないだろうか。

セクハラ魔の思考パターンにはいくつか共通点があると言われる。まず第一は「相手も自分に性的に興味を持っている」という自分勝手な妄想である。カリフォルニア大学バークレー校のケルトナー教授(心理学)は、権力が人の行動をどう変えるのか、という研究を長年にわたって行ってきた。

その研究においてケルトナー教授は「権力を手に入れた人は、人の感情を読み取りにくくなり、人の立場に立って物事を考えにくくなる。より衝動的に職場の行動倫理を逸脱した行動をとりやすくなる」と結論づけている(引用元)。そして、「権力を手に入れると他人の自分に対する性的関心を誇大評価しやすくなる」と分析する。

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