1本で酔える!「高アルコール飲料」の吸引力 サントリー「ストロングゼロ」誕生の舞台裏

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サントリースピリッツRTD部課長の井島隆信氏(編集部撮影)

このことは、ストロングゼロの“生い立ち”とも関係している。まず、ストロングゼロの源流となったのが、2005年発売の「-196℃」シリーズだ。「居酒屋で飲む生搾りチューハイはなぜおいしいのか?」という素朴な疑問から、開発がスタートしたという。

「その秘密は皮です。レモンやグレープフルーツなどを自分で搾ることにより、皮に含まれている成分が手についたり、香りによって感じられる。これが、家で飲む缶チューハイと違う、フレッシュなおいしさ、うまみとなります」(井島氏)

そこで、同社では果実を皮まで含めまるごと液体窒素で瞬間凍結し、微粉砕してウオツカに浸す「-196℃製法」を開発した。瞬間凍結で加熱による劣化を防ぎ、フレッシュなおいしさをキープ。粉砕して原酒に浸すことで、香り成分まで余すところなく使用できるという理屈だ。これを、果実の果汁に加えて「ダブル使い」することにより、店で飲む生搾りチューハイのようなフレッシュさが特徴の、-196℃ブランドを誕生させた。

社会不安を背景に増えた「家飲み」

しかしここまではまだ、ブランドの黎明期にすぎない。大きな転機となったのが2009年のストロングゼロ発売だ。2008年のリーマンショックなど社会不安を背景に、節約志向、家飲みの傾向が高くなった。アルコール度数が8%と高く飲み応えがあるが、糖類を配合していないことが特徴。「料理にはやっぱりビール。でも健康診断の数値も心配」という、40代以上の男性ユーザーがビールからストロングゼロへと移行した。これにより-196℃シリーズの販売数は1068万ケースから、2009年は1452万ケース、2010年は1516万ケースと、1.5倍に伸びた。

次の転換点が、2013年。「甘くないこと」を強調した「ストロングゼロドライ」の発売だ。これが、今のストロングゼロの「食事に合うイメージ」の決定打となった。同社の調査によると、発売前の年に比べ、食事と一緒に飲む人が全体でおよそ3%、40代男性では5.6%増えたという。
近年は若者のビール離れが進んでいるといわれ、代わって缶のチューハイ、カクテル類の販売数は全体でも微増が続いているが、そのなかでも-196℃シリーズは、2008年以来連続で販売数を更新し続けている。2017年の販売数は、3768万ケースとストロングゼロ発売年の1452万ケースの倍を大きく上回った数値となっている。

もっとも、1つのイメージを訴求し続けたことだけが理由ではない。

「売れる商品の陰で、メジャーなお客様の意見とは反対の声もつねにあるのです。そういった潜在ニーズをチャンスととらえて開発した新商品がその都度起爆剤となり、長く売れてきたのだと考えています」(井島氏)

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