新潟長岡「データセンター」が注目される事情 老朽化が深刻な業界の現状を打破できるか

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ただ、地方ならばどこでもいいわけではない。大切なのは長岡市に降る雪。DCではサーバーの冷却費用が膨大なため、冷却に活用できる雪の降る地域が立地に適しているのだ。

DC建屋の横の雪山。夏でも溶けない(写真:データドック)

このDCでは秋から春はサーバーの冷却に熱交換器と外気を利用し、夏は冬に積んでおいた雪で冷やした不凍液を使う。自動車がラジエーターでエンジンを冷却するのと似た仕組みだ。冬季中にDCの建屋の横に最大4000立方メートルの雪山を積む。そこに木片チップを敷き詰め、シートをかぶせておくと、夏でも雪が溶けないのだという。こうした工夫によって、同規模のデータセンターよりも運営コストを約38%削減できる。

通常、DCを開設する場合、10Gbps程度の回線を用意し、その後ビジネスの拡大に伴って容量を増やしていく。しかしこの長岡のDCは、東京・大手町との間を100Gbpsの高速専用線で結び、当初から大容量データの高速伝送を可能にした。バックアップルートとしても大阪・堂島との間を10Gbpsの回線でつないでいる。これだけの設備を整えられたのも、ひとえに雪を活用することで運営コストを安く抑えているためだ。

排熱でワサビとチョウザメを育てる

従来型のDCはデータを保管するのが仕事だが、データドックは顧客が活用しやすい形式にしてデータを保管する。同社の宇佐美浩一社長は「ビッグデータを活用する手前の下準備を当社が担う」とコメントする。

また、DCからの排熱を利用して、植物工場での水耕栽培と水産養殖も行う。同工場で採用されるのは「アクアポニックス」というシステムで、実際に植物工場を運営するのは、埼玉県に本社を置くebfグリーンテック。同社は日本におけるアクアポニックスの第一人者だ。

DCの排熱で水槽内温度を20度以上に保ち、魚の排泄物を植物が栄養として取り込むと同時に、植物の根がフィルターの役割を果たして水をきれいにする。工場内での栽培のため、農薬を使用しないで済む。

青果物は葉野菜やトマト、パッションフルーツなど各種作物の栽培が可能。魚は淡水魚であれば何でも飼育可能だが、同DCではワサビの栽培とチョウザメの養殖を検討している。

ラックスペース500台分のうち、すでにサーバーが入っているのは40%程度。ただ、業界最高水準のファシリティスペックと利用料金の安さで注目を集めており、これから有力IT企業が入居するようだ。

データドックは2019年3月期に売上高20億円を目指す。さらに100億円を投じ2021年に第2期棟を竣工、1500台分のラックスペースを設け、売上高80億円を目指す。第四銀行など新潟県内外の9金融機関や新潟ベンチャーキャピタル、日本政策金融公庫の支援を受けており資金面の心配はない。

これまでは邪魔モノだった雪をDCに活用する長岡のデータセンターは、DC関係者だけでなく、地方自治体からも注目されている。

田宮 寛之 経済ジャーナリスト、東洋経済新報社記者・編集委員

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たみや ひろゆき / Hiroyuki Tamiya

明治大学講師(学部間共通総合講座)、拓殖大学客員教授(商学部・政経学部)。東京都出身。明治大学経営学部卒業後、日経ラジオ社、米国ウィスコンシン州ワパン高校教員を経て1993年東洋経済新報社に入社。企業情報部や金融証券部、名古屋支社で記者として活動した後、『週刊東洋経済』編集部デスクに。2007年、株式雑誌『オール投資』編集長就任。2009年就職・採用・人事情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げ編集長となる。取材してきた業界は自動車、生保、損保、証券、食品、住宅、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、化学など。2014年「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職

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