「子どもの知性が伸びる教育」の3つの特徴 人生100年時代に向けて大人がやるべきこと

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これら3つの条件の中で、筆者が最も重要であると感じる部分は「ハードルが低いこと」である。難易度の高いチャレンジや深い探究、あるいは自由で多様な取り組みができるのは、往々にして学校で能力が高いとされる生徒や既に評価されている生徒である。葛藤に出会うかどうか、あるいは葛藤を乗り越えようと試行錯誤するかどうか。あるいは自分自身の可能性を信じることができるかどうか、ということも、学校の授業などの取り組みでうまくパフォーマンスを発揮していたかということに依存する部分が大きい。

しかし、前回の記事でも書いたとおり、自己変容型知性を身に付けることがこれから求められるのはリーダーだけではないのだ。そう考えると、能力の高い子も低いとされる子も等しく学びの場に飛び込めるようにするには、ハードルの低さは何よりも重要となる。

言葉選びや言い回しに注意することはもちろん、誰がなにを言っても許されるような安心安全の場の設計や、規範を完全に手放したコミュニケーションが最も重要である。そうすれば「面白いからやってみる、やってみたらできちゃった。だからもっとやりたくなる」という流れが自然に生まれる。その中で葛藤に出会ったり、自分の中にある可能性に出会っていくことができるのだ。

以上の3つのポイントを意識したキャリア教育を、学校は徐々にではあるが進めようとしている。これからのキャリア教育が目指すところを一般社会や大人が支援していけるか、あるいはその理念を家庭でも実践できるか、ということも今後課題となるだろう。

「子ども」という概念は17世紀に生まれた

ところで、フランスの歴史学者であるフィリップ・アリエスは、1960年に公刊した『〈子供〉の誕生』の中で、「子ども」という概念が17世紀以降に作り出されたということを記している。

当時、社会に活字文化が広がり、子どもに読む能力、書く能力を発達させる「必要」が生まれた。それが「子ども」を「小さな人」から「未熟な大人」、そして「被教育者」に変えたのである。それ以降子どもとは、大人が知っていることを「知らない人々の集団」となった。逆に言えばそれ以前の中世においては、成人でさえ、権力者や階級の高い人々が持つ独占的な情報を知る手段がなかったので、階層の間に線を引く必要はあっても、成人と子どもの間に線を引く必要はなかったのである。

では現代はどうか。子どもと大人で、「知っていること」あるいは「知りうること」にそれほど大きな差があるだろうか。デジタルネイティブ世代は、いまの中高年世代よりも圧倒的に検索力が高く、情報にリーチするスピードは速い。動画によって情報を収集するということも、大人より若者たちのほうが得意だ。そしてそうした情報や知識は、国境を越えてグローバルに行き来している。大人よりも子どものほうがものを知っている、知りうるということはもはや珍しくない。

つまり子どもという存在を再定義しなければいけない時代に差し掛かっていると言えるのではないだろうか。当然、脳や体の発達段階によって、できることや適切な発育環境は異なるが、年齢が低いということだけで、すべての領域において子どもの発達が成人よりも劣っているというのはもはや時代錯誤である。彼らはもはや「未熟な大人」ではないのだ。

子どもという概念すら揺らぐ現代。大人はまず自分が持っている子ども観、教育観を見直してみてはどうだろうか。

福島 創太 教育社会学者

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ふくしま そうた / Sota Fukushima

1988年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、株式会社リクルートに入社。転職サイト「リクナビNEXT」の企画開発等、企業の中途採用に関するさまざまな業務に携わる。退社後、東京大学大学院教育学研究科修士課程比較教育社会学コースに入学し、若者のキャリア形成について研究、修了。現在は同大学院博士課程に在学しつつ、株式会社教育と探求社で、中高生向けのアクティブ・ラーニング型キャリア教育プログラムを開発。また、一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブで、生徒の21世紀型スキルを育む教員の支援、研修にも従事している。近著に『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?――キャリア思考と自己責任の罠』(ちくま新書)。

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