国際航空券の販売方式が変わる--ゼロコミッションで旅行会社が大転換

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 海外旅行の低迷が続いている。今年の日本人出国者数は、1~8月で前年同期比5・8%減(日本政府観光局、推計値)。景気低迷に加え、高騰する燃油サーチャージの負担が需要を冷やしている。

そんな中、利用者に新たな負担が発生した。国際航空券の「販売手数料」だ。すでに旅行会社大手のエイチ・アイ・エス(HIS)は6月から、利用者から手数料徴収を開始(正規航空券で2000円、格安航空券で460円)。10月には業界最大手JTBも新たな手数料基準(正規・格安とも2100円)を設けるなど、業界全体に広がってきた。

これまでも規約上、旅行会社は利用者から手数料を徴収することができた。ただ競争激化の中で、現実的に徴収できるのは緊急手配など限られた場合だけだった。

航空会社が相次いで手数料をカット

なぜ手数料徴収が本格化したのか。背景には、航空会社が旅行会社に支払う手数料(コミッション)カットの動きがある。従来、正規航空券(「早割」など航空会社の正規割引航空券を含む)の販売については、航空会社から旅行会社に対しコミッションが支払われていた。

しかし格安航空会社(LCC)の台頭や旅客低迷で、航空会社の経営環境は悪化。コミッションカットの流れは世界的に広がっている。2001年にIATA(国際航空運送協会)がコミッションの自由化を決めてから一気に加速し、翌02年には米国でコミッションが全廃。その後、欧州へと波及した。

日本でも06年以降、見直しが進んでいる。日本航空(JAL)と全日空(ANA)は、07年4月にコミッションを一部引き下げた。その結果、JALは年間126億円、ANAは40億円のコスト削減につなげている。しかし最近は、燃料高が航空会社の経営をさらに苦しめており、コミッションカットの機運が再び高まっている。

今年10月から、成田空港で日系2社に次ぐ路線網を持つノースウエスト航空を含む米国2社が、ゼロコミッションに踏み切った。大手旅行会社の幹部は「予想より1年早かった」と漏らす。逆風が強まる中、日系2社を含め、ゼロコミッションに向けた動きが加速すると思われる。

旅行業界への影響は小さくない。最大手のJTBでも営業利益率は1・4%(07年度)にとどまる。薄利多売のビジネスモデルで、コミッションもカットされてはたまらない。利用者からの手数料徴収には、背に腹を代えられない事情がある。

これまでコミッションの平均が5%程度なので、10万円の航空券に対する旅行会社の取り分は5000円。それがゼロコミッションとなれば、今後は利用者から2000円を徴収したとしても、到底そのマイナスを埋めきれない。日本の旅行業者数は1万社を超える。市場全体のパイが縮小する中で、中小業者を中心に影響は避けられそうにない。

先行した米国では、旅行会社の再編・淘汰が加速。ゼロコミッションの後、旅行会社の店舗数が約25%も減少したといわれる。日本でも「大手企業がより強くなる」(斎藤剛JPモルガン証券シニアアナリスト)のはほぼ間違いない。

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