AIGを押し潰した”CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)”のカラクリ

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 サブプライム問題による市場の混乱や金融機関の破綻でクローズアップされたのが、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)取引におけるカウンターパーティ(取引相手)リスクだ。

CDSは「信用リスク」を取引するもので、主に、保有債権の信用リスクをヘッジする手段として広く使われている。信用リスクとは、融資先や社債の発行体が債務不履行に陥るリスクを指す。

下図は企業Aに対して銀行が10億円の融資をしており、その債権に対するリスクヘッジとしてCDS取引を行うケースを示したもの。銀行は企業Aが支払い不能に陥った場合に備え、CDSの取引相手が代わりに元本を返済する保証契約を結び、対価として保証料(プレミアム)を支払う。こうした行為を「プロテクションの買い」といい、保証する側は「プロテクションの売り」となる。企業Aを「参照企業」と呼ぶ。

実際に企業Aが倒産や支払い不能に陥るなど、参照企業でクレジット・イベントが発生すれば、CDSの取引相手は銀行に元本相当額を支払い、銀行は融資債権を引き渡す。カウンターパーティリスクとは、ここで保証してくれるはずの相手(=プロテクションの売り手)が債務不履行を起こすリスクを言う。こうした場合、銀行は他の保証相手と契約を結び直す必要が出てくるため、追加コストがかかる。

デリバティブ取引が発展し始めたのは1980年代から。CDS取引は業界団体であるISDA(国際スワップ・デリバティブ協会)が契約書のひな型を決めたことで、2001年から急速に取引量が拡大した。01年末で9188億ドルだった取引量(想定元本の残高ベース)は、07年末には62兆ドルへと激増した。CDSは原債権(図では銀行の企業Aに対する融資)から派生していくため、取引規模の大幅な拡大は、金融市場における「レバレッジ」の拡大を象徴するものといえる。しかし、今年6月末にはその金額が55兆ドルと減少に転じており、レバレッジの“巻き戻し”が起きていることが見てとれる。

これまでCDS取引は格付けの高い(=信用力の高い)金融機関同士で積極的に行われてきた。ところが、サブプライム問題で金融機関の財務が急激に悪化し、今度はカウンターパーティリスクが問題となった。ベアー・スターンズをカウンターパーティとしている金融機関は多く、取引を保護する意味でも簡単にベアーを潰せなかったとされる。リーマン・ブラザーズの場合、信用力の低下が不安視されてから破綻までが長かった。当局はこの猶予ともいえる期間にリーマンとのCDS取引が縮小されたと判断したようだ。その結果JPモルガンに救われたベアー・スターンズと違い、手を差し伸べる存在は現れず破綻へ追い込まれた。関係者によれば、破綻前日の9月14日の日曜日、リーマンがカウンターパーティとなっているCDSに対し、ISDAから特別な提案がなされたという。具体的には、リーマンを相手に同じ参照企業のプロテクションの売りを行うX社、買いを行っているY社とが、X社−Y社の直接取引に切り替え、CDSの売買スキームからリーマンを外すという処置だった。この取引は「リーマンが破綻しなければ無効」との取り決めがあったという。

また、CDSに絡んで07年の暮れから問題視されたモノラインは、金融保証の専業会社。モノラインではサブプライムローン関連が含まれる資産担保証券(ABS)を再証券化した商品ABSCDOのスーパーシニア(最上級格付け)部分に対し、証券会社や銀行を相手に、CDSを使って多くの保証を行っている。だが、ABSCDOの格下げに伴い、保証しているモノラインの財務にも不安が高まったとして、格付け会社がモノライン自身の格下げを実施した。確実な金融保証を行うために、モノラインの経営はトリプルA格付けの維持が前提とされている。格下げとなれば、保証をより確実にするために担保を差し出す必要が生じる。その事態が大量に発生し、モノライン危機が高まった。

また、AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)は子会社のAIGFPがモノラインと同じ業務を行っていた。今年6月末の開示資料では、その想定元本額が4410億ドルと巨額。ポジションがあまりにも売りに偏りすぎていた。AIGは世界で広く保険事業を行っており、そうした意味でも破綻を避けたかったが、政府融資枠の設定で救われた背景には、CDS市場における存在感の大きさも多分にあったといえるだろう。

(週刊東洋経済編集部 写真はAIGグループの日本法人が入居するビル)

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