着工30年「小田急複々線」はこうして完成した 昭和にスタート、平成をほぼ費やして開通

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この日、東北沢―世田谷代田間の工事に従事したのは約800人。梅ヶ丘駅での線路切り替えや東北沢駅の仮設ホーム撤去などといった大がかりな作業のほか、ホームの表示類の更新や新ホームへのエレベーター停止位置調整など、作業は多岐にわたった。

5時10分発、下りの一番列車が到着(撮影:梅谷秀司)

そして朝4時48分、始発の各駅停車新宿行きは経堂駅を定刻通り発車。4時54分には開通式の開かれている下北沢駅の新ホームに到着し、テープカットが行われる中、長い警笛とともに新宿方面へと出発した。

まだ下北沢駅の新駅舎整備など各種の工事は残っているものの、複々線化の線路に関する工事はこれで完了したことになる。計画以来約半世紀という一大プロジェクトの「最後の夜」は、こうして明けた。

人口減の時代に強みとなるか

昭和の高度成長期真っただ中に計画され、バブル経済のさなかに着工し、そして「平成」の終わりを目前に完成した複々線。1965年に約81万人だった1日平均の利用者数は、複々線化工事に着手した1989年には約185万人にまで伸びた。利用者数はその後も増え、現在は1日約203万人。今もラッシュ時の混雑率は首都圏の主要路線で3位、私鉄では2位で、複々線化の効果に期待する利用者は多い。

小田急線は首都圏の大手私鉄各線の中でも平均乗車距離が15.5km(2014年度「鉄道統計年報」)と長く、長距離利用者が多い。小田急は複々線化とこれに伴うダイヤ改正によって、ラッシュ時の郊外から都心への到達時間が短縮されることをアピールし「選ばれる沿線」を目指そうとしている。多摩ニュータウンと都心の間で競合する京王線との競争もさらに活発化しそうだ。

だが、郊外の人口が増え続けた時代は終わりに近づき、今後は人口減少が避けられない。国土交通省が2012年に公表したリポート(東京都市圏における鉄道沿線の動向と小田急小田原線沿線地域の予測 小田急小田原線沿線地域の予測・分析)では、2035年の小田急沿線の夜間人口は2005年比で5.3%、生産年齢人口は19.3%減少すると予想されている。将来的には、郊外で人口減が進むのは確実だ。

日本全体が右肩上がりの時代に計画、着工され、人口減少時代の入り口に完成した複々線。17日からの新ダイヤは、複々線が今後に向けた「強み」となるかどうかを占う試金石となる。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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