「高等教育無償化」が招く最大の弊害は何か 大学独自の奨学金を充実させたほうがいい

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この講演では、大学や短大、専門学校が独自に設けている奨学金や特待生制度について紹介することに努めた。一般的にはあまり知られていないが、現在、このような学校独自の経済的負担軽減策が数多く存在している。経済的に厳しい学生に、大学や後援会が独自に奨学金を出すことは古くから存在したが、これが拡大したのは、大学入試の多様化、学生確保競争の激化、さらに日本経済の低迷など、多くの要因が関係する。

小林雅之東京大学教授が、『カレッジマネジメント』誌と2012年に行った「奨学金制度に関する学長調査」によれば、この当時すでに、回答のあった大学の79.7%、私立大学では87.4%が大学独自の奨学金制度を設けていた(「大学授業料の奨学金の現状と戦略-教育機会の格差の是正のために-」『大学時報』nov.2013 第353号)。現在では、独自の奨学金制度は一層拡大している。

筆者の調査によれば、2017年度では全国の国公立大学169校すべてに独自の奨学金制度が設けられている。また、東京都には私立大学が123校あるが、その内の117校、約95%が独自の奨学金や特待生制度を備えている。学生募集に比較的余裕のある大学が多い東京都でこの割合なので、地方大学では学生募集の切り札の1つとして、東京と同等かそれ以上に独自奨学金を設けている大学が多いと推測される。

学習を頑張ろうとするモチベーションに

これらの奨学金や特待生制度は、給付型か無利子の貸与型が多く、高校時代の学業成績や入試で一定レベル以上の得点を獲得することが、受給条件として定められていることが多い。

たとえば、群馬県にある東京福祉大学は、充実した奨学金制度を謳う大学であり、その中に「Special奨学生制度」がある。これは50名に4年間総額約500万円の学費を免除し、さらに在学中に大学主催の留学に参加する際には、費用を半額免除するという内容である。対象となる学生はAO入試・推薦入試で25名、特別の一般入試で25名が選ばれるそうだ。

ここまで手厚いものはさすがに少ないが、入学金免除、授業料全額・半額免除等の制度がある大学は珍しくない。そして、これらの特典は学生支援機構の奨学金よりも「お得」感が強く、経済的に厳しい家庭に育った高校生にとっては、高校での学習を頑張ろうとするモチベーションになっている。

特に、学力も学習意欲もあまり高くない「教育困難校」の生徒は、高校生活に目標を見いだすことがなかなか難しい。そんな彼らに、「高校生活を頑張っていれば、お得に進学できる」という情報を早い時期に伝えることで、その後の高校生活への取り組み方が変わる可能性がある。だからこそ、先月の講演でも、その情報を発信したことを学校に感謝されたのである。

「おカネ」で釣って勉強させるのかという批判もあるだろうが、結果的には高校の雰囲気を落ち着かせる効果もある。さらに、これまで頑張る経験をしていない、頑張ろうとしてもできなかった生徒たちに、頑張ればその分だけ報われることもあると教える機会にもなりうるのだ。

もちろん、学校独自の奨学金制度等は進学者全員に行き渡るものではない。しかし、その制度を知り日々頑張れる高校生こそ、本来奨学金を受け取るべき生徒であり、上級学校側も、ぜひとも欲しい学生なのではないだろうか。

次ページ今後「高等教育無償化」が進展すれば…
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