構造不況の造船 海洋資源に走る 日の丸造船、石油・ガス開発の洋上設備に活路求める

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FLNG向けタンクの事業化を狙うIHI

三井造船や川重だけではない。総合重機の最大手、三菱重工業は今年4月、ノルウェーの資源探査会社から最新鋭の探査船2隻を受注した。同社は中国勢との競合が激しい一般商船から撤退し、技術参入障壁が高い資源探査船をLNG(液化天然ガス)運搬船や大型客船と並ぶ重点船種と位置づける。

IHIでは、海洋資源関連で二つのプロジェクトが動いている。同社は今年6月、グループのジャパン マリンユナイテッド(JFEとの造船事業統合会社)などと共同で、ブラジル北東部ペルナンブコ州のアトランチコスル造船所に出資した。同造船所はペトロブラスから大量の石油タンカー、ドリルシップを受注しており、IHIも川重と同様に現地造船所への出資を通じて、ブラジルでの造船海洋事業に乗り出す。

IHIが進めるもう一つのプロジェクトは、FLNG(浮体式の天然ガス洋上液化設備)用タンクの事業化だ。FLNGは、海底から取り出した天然ガスを洋上でマイナス162度まで冷やして液体状のLNGに変え、船体内タンクで一時貯蔵する最先端の洋上設備。現時点でまだ稼働している実物はないが、2件発注済みで、豪州や東南アジアを中心に複数の導入計画がある。

FLNGは洋上で操業するうえ、貯蔵LNG量も変動してタンク内の状態が不安定なため、タンクの損傷リスクが高い。IHIは頑丈さが売りの独自SPBタンク技術を持つ。コストが高くLNG運搬船用では他社に採用されなかったが、「使用条件がより過酷なFLNGなら十分、商機がある」(海洋・鉄構事業担当の安部昭則・執行役員)と見る。製造を担当する愛知事業所は早くもFLNG用タンクを将来の柱に位置づけ、専用のアルミ自動溶接ラインを導入して初の受注を待っている。

国も造船各社の海洋資源分野進出を支援しようと動いている。国土交通省をはじめ、日本政府はブラジル政府に対して、日本の造船大手が共同で研究・開発を進めている洋上中継基地(沖合い作業現場に人員や機材を運ぶ中継基地となる巨大な浮体構造物)の導入を提案。今年5月には茂木敏充・経産相、9月には岸田文雄・外相がブラジルを訪問し、担当大臣らに売り込みを図った。

洋上基地の受注で連合日本政府も後押し

日本政府の強い働きかけが功を奏し、ペトロブラスは洋上中継基地の導入を計画。14年に行われる入札には、日本の造船大手が連合を組んで応札する。国交省海事局海洋開発戦略室の鈴木長之・課長補佐は言う。「大きな市場のある地域で早く実績を作り、現地の石油会社から信頼を得ることが何より重要だ」。今回の洋上中継基地の売り込みは、そのチャンスを国内勢に与えるための働きかけだ。

造船事業の新たな収益源を求めて、海洋資源分野へと走る国内造船大手の面々。はるか先を行く韓国勢のみならず、伝統的な造船で日本を脅かす存在となった中国勢も続々と参戦し始めている。そうした厳しい競争環境の下で、海洋資源分野を新たな収益源として確立できるかどうか──。その成否は国内造船大手各社の生き残りに直結する。

渡辺 清治 東洋経済 記者
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