川重が新幹線「N700S」開発から外された事情 JR東海との縁が切れた「あの一件」が尾を引く

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しかし、川重はN700Sの開発メンバーから外れたこともあり、JR東海向けのN700S量産車を製造できるチャンスは少なそうだ。また、JR西日本の新幹線のうち、山陽新幹線向けは991両ある。そして、JR西日本も昨年度から山陽新幹線にN700Aの導入を開始しており、メーカーは、やはり日立と日車だ。JR西日本はN700Sも近い将来導入するだろうが、はたして川重は受注できるだろうか。日本の新幹線の全体の3分の2を占める東海道・山陽新幹線の更新需要を物にできないと川重にはつらい。

川重が強みを持つはずのJR東日本向けについても安閑としてはいられない。JR東日本は、これまで通勤車両を中心に製造していた子会社の総合車両製作所にもE7系を発注した。JR東海は子会社の日車に数多くの新幹線車両を造らせているが、もしJR東日本も同様の戦略を考えているとしたら、今後はJR東日本向け新幹線でも川重のシェアが減るという状況になりかねない。

川重を国内外で待ち受ける茨の道

英国の高速鉄道プロジェクトを手中にして大きく売り上げを伸ばした日立同様、川重も海外に高速鉄道を売り込みたい考えだ。とりわけ、インド高速鉄道プロジェクトは獲得したい案件である。現状ではJR東日本の東北新幹線E5系をベースにした車両が使われる想定になっており、川重の商機は十分ありそうだ。ただ、インドも車両の現地生産を希望しており、将来の車両輸出も念頭にあるはずだ。川重にとって中国の二の舞いは避けたいところだ。

2016年11月、安倍晋三首相はインドのモディ首相 とともに川重兵庫工場を訪れ、製造中の東北新幹線「E5系」を視察。日本の新幹線を直接売り込んだ(写真:共同通信)

また、川重は独自の海外向け高速車両「efSET」を開発し海外展開をもくろむ。その動きに水を差したのが、昨年12月に起きた東海道・山陽新幹線「のぞみ34号」のトラブルだ。走行中のN700系台車に亀裂が発生。原因はあろうことか川重の製造ミスだった。新幹線の安全神話を大きく揺るがしたことは、メーカーとしては致命的だ(「『のぞみ』台車亀裂、2つの原因は"人災"だった」)。

JR西日本の平野賀久副社長が「川重が引き続き重要なパートナーであることは間違いない」と言うように、国内での信頼は保たれるかもしれない。

しかし、海外ではどうか。韓国高速鉄道の受注で日本が敗れたのは、同時期にデビューした300系「のぞみ」の運行時にトラブルが相次いだことで、競争相手の欧州勢が「新幹線の安全性に疑問あり」と、ネガティブキャンペーンを張ったことも理由の一つとされている。高速鉄道の売り込みに際し、中国や欧州のライバル勢はこうした「敵失」を有効活用する。国内で失地回復ができなければ、海外に活路を開くこともままならない。川重にとっては茨の道が続きそうだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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