石巻の缶詰メーカー、どん底からの超復活劇 震災支援の縁を活かし過去最高業績上げる

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1957年に木村氏の父・實氏(故人)が創業した木の屋石巻水産は、当時の日本人の貴重なタンパク源だった鯨などを取り扱い、事業が成長した。現在は石巻港に水揚げされたサバやサンマやイワシなどの魚介類を、その日のうちに缶詰に加工する「フレッシュパック製法」で知られる。魚の特徴に合わせて水煮、醤油煮、味噌煮などに味付けする。看板商品が前述の「金華さば」で、ロングセラー商品に「鯨の大和煮」缶がある。

同社の冷蔵工場は「石巻市魚町1丁目」。目の前に石巻湾が広がる場所にある。この地の利があるので、脂がのった魚介類をその場で缶詰にできるのだ。

フレッシュパックの作業風景(写真:木の屋石巻水産)

「手前みそですが、お客さんからは『こんな缶詰、食べたことがない』と言われます。刺身で食べられる魚を缶詰にして、うま味と栄養を閉じ込めているからです。社員全員が品質に自信を持って販売できるのも当社の強みです」(木村氏)

経営を父から受け継いだ木村氏は、弟の隆之氏(同HD副社長)と二人三脚で企業規模を拡大させた。2016年10月に甥の優哉氏(隆之氏の次男)に事業会社の社長を譲っている。同社は東日本大震災で甚大な被害を受けたが、後述するさまざまな仕掛けで事業を立て直した。2017年9月期の売上高は約19億円で、東日本大震災前の売上高(約15億円)を大幅に超えた。今期も順調に推移している。

篠原ともえが「缶」をデザイン

ここまで業績が急回復した理由は、2つある。ひとつは、もともと得意だった商品開発力をさらに高めた「モノづくり」。もうひとつは「コトづくり」だ。コトづくりは震災後に磨かれた。その一例に、2016年に発売した「カレイのえんがわ」缶パッケージがある。

武骨だったデザインを刷新した。担当したのは、タレントの篠原ともえさんだ。個性的なファッションと独特の話し方で1990年代に“シノラー”ブームを巻き起こしたことで知られ、現在は大人びた雰囲気の女性として話題を呼ぶ。服飾学校で学び、数々のデザインを手がけるデザイナーでもあり、キュートなイラストも本人によるものだ。

篠原ともえがデザインした「かれいのえんがわ缶」。新旧の缶写真(写真:木の屋石巻水産)

「きっかけは、篠原さんがパーソナリティを務めるラジオ番組『日本カワイイ計画。with みんなの経済新聞』に、当社の担当者が『カレイの縁側・醤油煮込みのパッケージが地味なので何とかしたい』と相談したことです。篠原さんが情熱的に取り組んでくださったおかげで、一時品切れとなるほど商品は人気を呼び、番組が主催する『日本カワイイ大賞 カワイイ食と農部門』大賞を受賞することもできました」(木村氏)

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