「すぐも地獄、先延ばしも地獄」、自民党の悲鳴に立ちすくむ麻生首相

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「すぐも地獄、先延ばしも地獄」、自民党の悲鳴に立ちすくむ麻生首相

塩田潮

 解散・総選挙はいつかが最大の焦点となっているが、データが一つ。
 「池田(4ヵ月後・勝利)、田中(5ヵ月後・不振)、大平(10ヵ月後・不振)、海部(6ヵ月後・勝利)、橋本(9ヵ月後・勝利)、森(3ヵ月後・不振)」。自民党結党後の新首相就任1年以内の総選挙の星取り表だ。これに中曽根首相の13ヵ月後を加えると、3勝4敗である。
 新首相人気による早期解散戦略は、実は失敗例も多い。ただし、いま取り沙汰されている11月総選挙だと、最短記録の2ヵ月後の総選挙で、自民党にとって未体験ゾーンとなる。

 麻生首相は10月2日、国会で「解散という政局よりも景気対策などの政策実現を優先」と答弁した。世界の金融不安や景気悪化が深刻なのに、総選挙なんかやっている場合かと言いたいのだろう。その主張は理解できるが、解散を政局ととらえる感覚はうなずけない。
 過去2代の首相が弱体だったのは、参院選の大敗ももちろんだが、総選挙での審判という信任状を持たずに政権を担ったからだ。民主主義の根幹に関わる問題なのに「政局」と言い切ったのは、解散問題が麻生政権を揺るがす「自民党内政局」となっているからだろう。

 いま自民党を覆っているのは、世界金融や景気悪化への不安よりも議員たちの落選恐怖症と野党転落恐怖症だ。各選挙区で支持離れが著しく、「福田退陣・派手な総裁選・支持率回復」という唯一の危機突破作戦は破綻したと受け止めている。向こう1年足らずで起死回生の大変身は不可能だから、総選挙は「すぐも地獄、先延ばしも地獄」である。

 麻生首相は、就任前、表向きの威勢のよさとは裏腹に、官僚の掌で踊り、周囲に動かされる「流され太郎」だった。「キャラ立ち」の首相は、今度は果敢に「未体験ゾーン」に挑むのか。自民党の悲鳴に負けて決断が鈍ると、福田前首相の二の舞いとなる可能性もある。
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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