聞く耳を持たない上司が知らない部下の本音 「聞いているつもり」で済ましてはいけない

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メンバーは、自分なりにいろいろ考えて発言や提案をしても、Fさんから何度も差し戻されたりダメ出しをされたりするので、結局自分の意見ではなくなっていると感じていました。実現するまでには手間がかかり、ハードルが高いとも思っていました。また、実行に移されたとしても、それまでに要する時間があまりに長いことが多く、当初の課題からすでにズレてしまっていることもありました。時間の経過によって、提案したメンバー本人の熱意が冷めていることもあったようです。

Fさんは、性格的にとても慎重なところがあり、特に新しいことをはじめるときには、自分なりにいろいろ調べたり、周囲の人に相談したりして、問題がないか自分が納得するまで確認します。それはリーダーとして必要なことですが、メンバーはその姿勢を「乗り気ではない」「ダメ出し」「後ろ向き」と捉えており、やる気をなくしてしまっていました。

その後Fさんは、自身のこれまでの行動を反省し、メンバーとの接し方を改めます。慎重に判断するという基本的な姿勢は変わりませんが、二つのことを心がけるようにしました。

まず、メンバーからの提案や意見について、その後の状況をFさんからの発信でメンバーと共有するようにしました。途中経過を自分から知らせるということです。もう一つは、それを単なる状況報告にせず、「自分はこんな心配をしている」「周りからこんなことを言われた」など、自分の懸念や考えていることを伝え、メンバーからそのことに関する意見を聞くようにしました。

こうしたことで、メンバーは自分の意見や提案が軽く扱われていないことを知り、実現方法をさらに一緒に考えることで、チーム運営に積極的に関わってくるようになってきています。

権威や安定にこだわるリーダーは要注意

この例とつながる心理学理論に、「学習性無力感」というものがあります。

有名なのは「カマスの実験」で、水槽のカマスとエサの間をガラス板で仕切り、カマスがエサを見つけて食べようとしても、ガラス板に遮られてエサを食べられないことを繰り返すうちに、エサを見ても反応しなくなり、その後ガラス板を外してもエサを取ろうとしなくなります。「どうせやってもムダだ」ということを学習して行動しなくなるというものです。

この「やっても無駄」「どうせ変わらない」などの心理状態は、意外に多くのチームで見受けられます。

私が見てきた中で、その原因として最も多いのは、メンバーを組織の論理や権威で抑えつけようとするリーダーの存在です。リーダー自身が相対的に上の立場を保つためや、自分にとって都合がよい安定を得るために、「チャレンジを認めない」「提案を却下し続ける」「聞く耳を持たない」など、「出る杭を打ち続けている」というものです。

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