定年後、「払い過ぎた税金」の元を取る方法 退職後、「恐怖の請求書」が必ずやって来る

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具体的な例を挙げてみましょう。私は60歳で家のローンを払い終えましたが、その際にそれまで自宅に付いていた抵当権を抹消する必要がありました。そこで司法書士事務所にお願いするのではなく、地元の法務局へ手続きの相談に直接出向いたところ、そこには司法書士がいて、「無料」で手続きをやってくれるのです。普通に司法書士の先生にお願いすると5000円とか1万円程度の費用がかかるところを、印紙税の2000円だけで済んだわけです。でも、実はこれは別にその司法書士がボランティアでやっているわけではありません。市から報酬が支払われているはずです。そして市から払われているということは取りも直さず、われわれが払っている住民税から支払われているということなのです。

このように公共の機関が行う行政サービスには、利用する価値のあるものがたくさんあります。ところがそれらを知らない人が意外に多いのです。

でもこれは仕方のない部分があります。そうした行政が提供するサービスの多くは放っておいても教えてくれたり、案内してくれたりするわけではなく、自分で探さないとわからないものだからです。現役時代は仕事が忙しくて、とてもそんなものを探す暇はありません。

広報誌やネットを見れば「かなりお得なサービス」も

ところがそうした行政サービスの内容を簡単に知る方法もあります。都道府県や市区町村が発行している広報誌がそれです。「広報〇〇」とか「〇〇市政ニュース」といったタイトルのものです。

実はこうした広報誌は有益な情報の宝庫なのです。各種のイベントが無料であったり、格安料金で行われたりしています。健康相談や予防接種などが、無料で行われていたりすることもあります。奥様の中にはそうした広報誌を丹念に読んで有効に活用している人もいるでしょうが、多くの現役サラリーマンは見たことすらないのではないかと思います。これらはだいたい新聞に折り込まれていますが、PDF化されたものを市区町村のサイトで見ることもできますので、情報は手軽に入手できます。

さらに言えば、民間企業が提供するサービスは営利目的ですから低価格のものは「それなりのサービス」しか受けることはできません。ところが行政が実施するサービスの原資は税金ですから、決して“安かろう悪かろう”とは言い切れないのです。予算があるかぎり、結構大盤振る舞いをされている場合も珍しくありません(それはそれで別の問題ではありますが)。私も定年退職後は自分が住んでいる市の広報誌を愛読していますが、本当に知らないことやお得な情報がたくさん載っています。せっかく住民税をたくさん払っているのですから、こういうサービスを利用しない手はありません。

現役時代は忙しいので、なかなかこうしたサービスをこまめに調べて利用することはできません。そもそも平日に行われるイベントやサービスだって多いですから、現実には参加したり、利用したりするのは難しいのです。言わば時間がない分、それをおカネで解決する“時間をおカネで買う”習慣が普通だと言っていいでしょう。ところが、退職した後は逆に時間はたっぷりあります。こうした行政が提供する公共サービスをフルに活用することで、それまでに納めてきた住民税の“元を取る”ことを考えていくのも、また定年後の生活方法の一つと考えていいのではないでしょうか。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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