イタリアで「EU懐疑主義政権」誕生に現実味 総選挙の結果を市場は楽観しすぎている

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今回の選挙はイタリアの分断を改めて浮き彫りにした。

3月4日、ミラノの投票所で投票するベルルスコーニ氏(写真:REUTERS/Stefano Rellandini)

今回の選挙の投票率は73%と前回2013年の75%を下回り、第二次世界大戦後の最低を更新した。とりわけ南部の投票率は全体に低く、政治不信がそもそも強い。その南部の各州でナポリ出身のディマイオ党首率いる五つ星運動は4~5割という高い支持を得た。

イタリアの南北格差は1861年の国家統一以来の構造問題だ。高度成長期を牽引したのは、ミラノ、トリノ、ジェノバの三角地帯や北東部のヴェネツィアを中心とする製造業の発展だった。近年では、グローバル化、とりわけEUの単一市場、ユーロの導入によって競争圧力が増した。北部はグローバル化やEUとユーロの恩恵を享受して繁栄しているが、南部は繁栄から取り残される傾向がいっそう強まった。

若者と南部の怒り、深刻化する南北格差

世界金融危機後、長期不況が続いたイタリア経済も2015年頃から緩やかな回復に転じているが、その原動力は輸出だ。失業率も低下し始めているが、輸出産業の基盤が弱い南部には恩恵が行き届きにくい。南部の失業率は全国平均の11.1%(2018年1月時点)を大きく超える。若年層の失業問題はとりわけ深刻だ。若年層の失業率は全国でも30%を超えているが、より技能の高い若年層は、南部から北部へ、さらに国外へと仕事を求める傾向が強まるばかりだ。

南部と若者を中心とする五つ星運動への支持は、既存の政治に見捨てられてきたという思いと現状を変えたいという願いの表れだろう。筆者がミラノで面談したシチリア島出身の研究者は「北と南はまるで別の国」という表現で地域格差への危機感を訴えた。

どのような政権の枠組みに落ち着くにせよ、イタリアの競争力の回復と格差拡大の是正の両立に布石を打つような政策をとって欲しいと思う。

伊藤 さゆり ニッセイ基礎研究所 主席研究員

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いとう さゆり / Sayuri Ito

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)を経て、ニッセイ基礎研究所入社、2012年7月上席研究員、2017年7月から現職。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科非常勤講師兼務。著書に『EU分裂と世界経済危機 イギリス離脱は何をもたらすか』(NHK出版新書)、『EUは危機を超えられるか 統合と分裂の相克』(共著、NTT出版)。アジア経済を出発点に、国際金融、欧州経済を分析してきた経験を基に、世界と日本の関係について考えている。趣味はマラソン。

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