日本のホテル「スマート化」を阻む壁と解決策 簡素化でビジネスホテルへの導入も可能に

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ルートロンは世界最大手の調光機器システムベンダーで、富裕層向け、オフィス向け、ホテル向けなど、さまざまな市場に調光システムを提供してきたが、近年は空調やカーテンなど、室内環境全体を制御するゲストルーム制御システム「myRoom」へと発展させている。

たとえば前述したように日本では、NECのシェアが極めて高く、海外とは異なる予約管理システムが採用されている。そこでサンコーテレコムでは予約管理システムを開発するトップ3社のサービスに対応させているという。前述したザ・プリンスガーデン東京紀尾井町も、開業時の報道によるとNECのシステムを採用している。

冒頭でヒルトンの例を挙げ、スマートフォンやタブレットの端末で、自在に予約からチェックアウト、館内設備の制御やホテル会員システムとの接続などが行えると書いたが、そこで使われているアプリはiRiS(アイリス)という会社が提供するGXPというパッケージ製品で、実はこのシステムはグローバルのトップ10ホテルチェーンのうち8社が採用している。顧客リストには、リッツカールトン、ハイアット、フェアモント、マリオット、マンダリンオリエンタル、スターウッドホテルズなど、名だたるホテルグループが並ぶ。

GXPはレストラン予約やルームサービス、スパ、コンシェルジュなどのサービスも網羅し、またPC向けデザインを含むウェブベースのユーザーインターフェースも提供している。シェアが極めて高いため、連動できるサービスや機器も多い。実はこのiRiSも、最近になってサンコーテレコムが代理店権を獲得したそうだ。

同社はホテル向けのWi-Fiシステムも持っており、それらを組み合わせ、ワンストップのスマートホテルソリューションを提供できることが、彼らの強みというわけだ。

客側のメリットだけでなく、運営コストも下げられる

今後を見据えた場合、これらのスマートホテルソリューションは、高級ホテルの“おもてなし”による体験の質を上げるだけでなく、1泊9000円~2万円程度のビジネスホテルでも費用対効果が高まっていくはずだとウィリアム氏は言う。

サンコーテレコムのアチュリ・カペラ・ウィリアム社長(筆者撮影)

「アプリ化することで日本では話者の少ない言語に対応できる点も大きいのですが、ルームサービスや客室の清掃、フロント業務などの効率化が行えるため、運営コストを大きく下げられるのです。大規模なリノベーションの場合でも、有線LAN以外は必要なメタル配線がありませんから、工事の初期費用、メンテナンス費用も抑えられます。ネットワーク対応のホテル設備も当たり前となって、機器側のコストも安くなり、費用対効果がとてもよくなっています」

ホテル建設・リノベーションが進んでいる中で、訪日客を増やす政府方針はあるが、彼らにリピーターとして定着してもらい、また好評を持ち帰ってもらうためには、ホテルでの体験も重要なことは言うまでもない。

これまでは海外製パッケージや機器と日本のホテル向けシステムを統合する包括的な解決策がなく、導入へのハードルは高かった。しかし、その壁が取り払われたのであれば、いよいよスマートホテル後進国からの出口も見えてくる。
 スマートホテル化の波は、今度こそ日本にもやってくるのだろうか。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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