グローバル化と民主主義の両立は可能なのか 自由化・国際ルールと「有権者の意思」

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1999年11月のWTO閣僚会議(シアトル)では抗議デモで開会式が中止となった(写真:Andy Clark/REUTERS)

世界の貿易は順調に拡大してきたが、2010年代に入ってその勢いが衰えている。1980年代半ば以降、中国などの新興国経済の急速な拡大にもかかわらず、世界のGDP(国内総生産)に占める輸出の割合は高まってきた。新興国経済の発展は貿易の拡大によって可能になったというべきだろう。

しかし、近年、新興国からの追い上げを受けている先進国だけではなく、グローバル化の恩恵を受けているはずの新興国においてもグローバル化への反発は強まっている。

1999年11月末にシアトルで開かれたWTO(世界貿易機関)閣僚会議で、開会式典が開催できなくなるほど激しい抗議デモがあったのが、その始まりとされる。米国内だけでなく世界中から反グローバリズムを掲げる市民団体が集結し、その数は数万人に上ったと報じられた。

世界のGDPと貿易額の比率も2010年代に入って低下する動きがみられるようになった。

グローバル化の恩恵を受けられなかった人々

2016年の米国大統領選挙で「アメリカ第一主義」を掲げて保護主義的な主張を行ったトランプ大統領が誕生したことや、英国が国民投票でEU(欧州連合)からの離脱を決めるなど、グローバル化の流れに反する政治的な動きもみられる。

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こうした背景には、経済のグローバル化が生み出すといわれていた成果を受け取れず、むしろ安定した仕事を失い、生活の不安に追われて将来への希望も持てなくなった人たちの存在がある。米国でhillbillies(南部育ち)やwhite trash(ダメな白人)、英国でleft-behinds(取り残された人々)と呼ばれる人たちが、トランプ氏やBrexit(英国のEU離脱)に投票したことも指摘されている。

労働分配率は多くの先進諸国で低下して所得格差が拡大した。グローバル化で得られた経済的利益の多くは、高所得者層に分配されて、中位、下位の所得者層には恩恵が及ばなかった。

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