45歳「酔うと化け物になる父」描いた女の稼業 小沢カオルはルポ漫画に気づきや学びを映す

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父親がアルコール依存症だと気づいて、病院に連れていって治療すべきだったんだって思いました。同じ苦労をしている人もいるかもしれないと思い、漫画にすることにしました」

『酔うと化け物になる父がつらい』はウェブで連載され大きな話題になった。

「いろいろな感想をもらいました。『こんな家あるわけないじゃん、ウソだよ』という意見と、『この程度でひどい家なんて言わないでほしい。うちはもっともっとひどい』という両極端の意見をいただきましたね。家って外からはまったく見えないブラックボックスなんだな、みんな自分の家を当たり前だって思ってるんだなと改めて感じました」

小沢さんは連載を終えずいぶんスッキリしたという。

気づきや学びの部分も作品に反映させたい

「昔は父親に対しなぜ『死んでくれ』って思うほど嫌いなのかわからなかったんですよ。父親を憎む私はなんて性格が悪いんだろう……といつも自分を責めていました。

今は『私の父親や家が普通じゃなかったんだな。そのせいでゆがんだ部分があったんだな』と思えるようになりました。もちろん私の性格が生来悪いのも事実なんですけど(笑)」

先日、小沢さんは体験取材でゴミ屋敷の清掃をした。そこのゴミ屋敷は、住んでいたお婆さんが1人で亡くなった部屋だった。

築50年の家で窓は割れていた。トイレは詰まって使用できなくなっていた。用はバケツで足していたらしく、尿がたまったバケツからは強烈な異臭が漂っている。床には500以上のビールの空き缶が転がっていた。

「お婆さんの家族に話を聞くと、検死の結果、脳にも心臓にも悪いところは見られなかったらしいんです。どうやら酔っ払って寝てしまって、そのまま凍死してしまったんです」

その話を聞いて小沢さんは、

「自分はこれを恐れていたんだ」

と気づいた。もし小沢さんが、父親に愛想をつかし1人暮らしをはじめていたら、父親が凍死していた可能性は高い。凍死だけではない、火の不始末から火事になったり、お風呂で溺れて死んだりした可能性だって考えられる。

小沢さんは、心の奥のほうでやっぱりお父さんに死んでほしくなかったのかもしれない。

河川敷の道なき道を行く小沢さん

「取材をしていると人の家のドラマが見えてくることがあります。最初は覗き見して楽しんでいる感じなんですけど、いつしか私自身の家族や家庭とリンクしてふと真剣に考えてしまいます。もちろんルポ漫画はギャグ要素も強いんですが、私はそういう気づきや学びの部分も作品に反映させたいと思っています。

でも、そうやってついついマジメに描いちゃうところがブレイクしない原因だよって編集さんには言われるんですけどね(笑)」

そうして今日も、小沢さんは新しい取材場所に出かける。

そしてルポ漫画を描くのだ。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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