「夫の浮気」と21年間闘い続けた女の恨み節 「蜻蛉日記」を盛り上げる4大名対決

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おほかたの世のうちあはぬことはなければ、ただ人の心の思はずなるを、われのみならず、としごろのところにもたえにたなりと聞きて、文などかよふことありければ、五月三四日のほどにかくいひやる。そこにさへかるといふなるまこもぐさ いかなるさはにねをとどむらん かへし まこもぐさかるとはよどのさはなれや ねをとどむてふさははそことか
【イザ流圧倒的意訳】
周りの人たちが何も知らないだけで、私たち夫婦は順風満帆だと思っているだろうけど、彼の心はどうしても私の思いどおりにならなくって……。こちらだけではなく、長年通っていた時姫様のところもかなりご無沙汰だと聞き、以前連絡を取り合ったこともあったので、五月三、四日ぐらいに歌を送った。
あの方はあなたのところも最近行ってないわね。真菰草のような彼がいったいどこに根を下ろすつもりかしらねぇ。
それに対して
そのセリフ、そのままお返ししますわ。あなたのところに入り浸っているんじゃなくって?

マウンティングが炸裂!

兼家の浮気が確定し、みっちゃんは焦りぎみ。それにしても何を思って時姫に連絡をしようと思ったのだろうか。かなり理解に苦しむ行動だ。時姫はみっちゃんより2年ぐらい前に兼家の妻となり、みっちゃんに兼家を取られている。自分が同じ立場になったとはいえ、時姫に同情してもらおうというのはお門違いもいいところだ。

そこで思うのだ……。自分より、時姫への通いのペースがスローになっていると確信しているみっちゃんが、少しでも勝ちたいと思ったのではないかと。同じ苦しみを分かち合えるというよりも、相手より自分のほうが優位に立っていることを証明するための行為とも取れるわけだ。

時姫とみっちゃんのやり取りの中に、「底」/「其処」、「刈る」/「離(か)る」、つまり夜離れ、「根」/「寝」が掛けられている。掛詞や隠語を使うことで和歌の意味合いを広げるというのは一般的な機能ではあったが、この2人の和歌を比べると、単語に隠されているヒントを落とさずに、一つひとつに対して丁寧に、注意深く反論している。もはやこれは執念以外のなにものでもない……。しかし、これはまだまだ序の口だ。

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