「夫の浮気」と21年間闘い続けた女の恨み節 「蜻蛉日記」を盛り上げる4大名対決

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この連載は、気の向くままに進めさせていただいているが、実は、前回の『蜻蛉日記』の記事も2月に掲載されていた。この季節に偏った読書を誘う何かがあるのかと思いをめぐらしたら、ハッと気づいた。無理矢理己の立ち位置を再認識させられ、半ば強制参加によって無駄にチョコが消費される、まったく楽しくないバレンタインデーという行事がすぐそこなのだ。

デパートの売り場で、財布と心の中身に見合ったベストチョコを探して楽しいひと時を過ごしている女性が多い時期だが、ひねくれた性格の持ち主である筆者は、チョコよりも、夫の浮気に苦しめられ、燃え尽きるまで嫉妬をしまくった女の話に手が伸びてしまうらしい。

女同士のガチンコ対決が満載

前回は愛を込めて、作者に<みっちゃん>というあだ名を(勝手ながら)つけたので、今回も同じように呼ぶことにする。

プレイボーイであることが男の宿命だった平安時代で、一途の愛を求めていたみっちゃんは生まれる時代を間違えてしまったと言わざるをえない。そして、大好きな夫に選ばれることをひたすら願っていた彼女は、選ばれずに傷ついた心を『蜻蛉日記』を通して癒やそうとしている。「これ以上負けたくない、負けてしまうと価値のない女になっちゃう」という緊張感、やたらとほかの女と張り合う気の強さ、ねちねちした独り言……。うっとうしいと思いながらも、病みつきになってしまう。

本来ならばふつふつと煮込んだ恨みを、自分を苦しめた男にぶっかけるべきだが、こみ上げてくる怒りの矛先は夫・兼家が愛したほかの女になっているのが痛々しいけれど、いかにも女らしい。みっちゃんほど聡明で、美人で、教養のある貴婦人でもそのような思考回路になるのだと、読みながら共感してしまうだけでなく、愛おしくさえ感じてくる。

そして、21年間分の恨みつらみがたっぷりと並べ立てられている『蜻蛉日記』の読みどころの1つは、強烈な印象を与える女同士のガチンコ対決。髪の引っ張り合いこそがないが、暴言を吐いて攻撃するシーンもなかなか臨場感あふれるものだ。今回は、『蜻蛉日記』における4大対決を紹介したい。

対決その1、みっちゃん対セレブ前妻、時姫様

好きな人の元妻なんて、可能なら記憶から抹消したい存在だが、みっちゃんはなんと自ら進んでコンタクトをとる。

次ページなぜ元妻にコンタクトをとったのか?
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