米「アムトラック」で事故が相次ぐ構造的理由 12月以降すでに3件の死亡事故が発生

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報道によれば、深夜2時半の時点で貨物列車を本線から副本線に誘導するために分岐器を手動で切り替えた後、CSXの係員は分岐器をそのままロックしたのだという。そこへ、本来は本線を通過すべきアムトラックの特急列車が、貨物列車が停車中の副本線に、時速80kmで突っ込んでしまったのだった。運転士は急ブレーキをかけ警笛を鳴らしたが正面衝突を回避することはできず、その運転士と車掌が犠牲となった。詳細は調査結果を待たねばならないが、CSXの係員がアムトラックのダイヤを把握していなかった可能性が濃厚だ。

2つ目には、経営不振による予算の切り詰めという問題がある。アムトラックは、慢性的な赤字構造であり、年間1700億円という赤字を、連邦政府に補填してもらっている。現在のトランプ政権は、この「政府依存体質」を問題視しており、予算の半額カットを主張。一方で議会サイドは満額補填を主張して対立している。

こうした赤字構造のためにアムトラックは保線に費用が回らず、新たな設備の導入も渋っており、それが安全運行の障害となっている。ヴァージニアの事故は、特急が時速160km運転を行う区間であり、本来であれば平面交差は適切ではない。だが、道路との立体交差化を行うような予算はアムトラックにはない。

一方で、貨物の会社は純粋民営化されており、健全経営で株価も高いが、それは全て鉄道貨物がトラックに比べて運送料が安い、つまり価格を売り物にしたビジネスとなっており、貨物業界の側にも安全へのコストは十分に用意されない構造があるという。

ハードだけでなく人材面にも投資を

3つ目の問題は人材だ。アメリカでは鉄道業界というのは、過去の遺物だとされて一部の鉄道史や模型のマニア以外には、社会的な関心は低い。そのために、人材の確保に苦労しているという。航空機や船舶の業界であれば軍出身の人材が活躍しているが、鉄道の場合はそれもない。

事故を起こした運転士の多くは、車掌を10年以上務めた後に訓練を受けて運転士になっているが、運転士としての経験年数は長くない。保線や整備となると人材難はもっと深刻だ。2月6日の「アセラ・エキスプレス」での走行中の連結開放事故に関しても、連結器の締結ミスという可能性が濃厚だ。

2年目を迎えたトランプ政権は、全国のインフラ整備を政策の柱に掲げている。空港、港湾、道路、橋梁に加えて鉄道への投資を行うことは大統領も明言している。そのインフラ整備にあたっては、設備などハード面での投資だけでなく、システムや人材を含めた抜本的な改善を望みたい。

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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