種を明かせば、ダボス演説は国家経済会議議長のゲーリー・コーンの手によるもの、一般教書演説はスティーブン・ミラー補佐官の作品であった。前者はゴールドマンサックス社出身のグローバリスト、後者はバノンの弟子的な存在で、「もう一人のスティーブ」と呼ばれる人物である。
ダボス演説は全世界のグローバリスト向けに、「物わかりのいい元ビジネスマン」のトランプ大統領を演じていた。一般教書演説では、アメリカ国内のトランプ支持者向けに、「一見、国民に団結を呼び掛けているようで、実は分裂をけしかけるメッセージ」を送っていた。まことに芸が細かいのである。
トランプ大統領が「確信犯」を貫く理由
しかし議会で法律を通して行くためには、本来は民主党に協力を求める方が良いはず。なぜ、こんな風に喧嘩を売るのか。たぶん確信犯なのであろう。トランプ批判の声が高まれば、トランプ支持者たちが黙ってはいない。かならず「俺たちのトランプを守れ!」と立ち上がってくれる。大嫌いな民主党やリベラルメディアがトランプ批判をするのなら、彼らとしては黙っちゃいられないのである。
まさに悪名は無名に勝る。国民が無関心であるよりは、嫌われる方がよっぽどいい。「驚異の視聴率男」の発想は、従来の政治家の発想を超えているのである。
最後の方では北朝鮮問題を長々と取り上げ、「北朝鮮で17か月間も抑留されて死んだ学生の両親」と、「脱北の際に片足を失ったが、今は韓国で人道活動をやっている若者」を紹介した。「北朝鮮はこんなに悪い国」というアピールである。将来的に軍事オプションを行使するための布石なのではないだろうか。
2002年の一般教書演説において、当時のブッシュ・ジュニア大統領が「悪の枢軸」発言をしたときだって、微に入り細にわたって悪行を並べ立てるようなことはしていない。ただ1行、「北朝鮮は自国の市民を飢えさせながら、ミサイルと大量破壊兵器で武装している」と言っただけである。当時の金正日はこれで震え上がった。それが同年9月には小泉首相の訪朝と日朝首脳会談に結びついたのだ。今回の言及は異例と言うほかはない。
かくも物騒なところもある一般教書演説であったが、株式市場の反応は悪くない。昨年2月にトランプ大統領が「議会合同演説」を行ったとき、ダウ平均はまだ2万1000ドルに過ぎなかった。それが今では急騰、一時は2万6600ドル台をつけたほどだ。大統領としては、「これはわが政権の業績」と言いたいところだろう。
2年目のトランプさんは、「ビジネスとマーケットにやさしい大統領」を目指しているようだ。その結果、言動がまっとうになるのは歓迎すべきところ。減税も決めてくれたし、大型インフラ投資も目指している。問題は対北朝鮮政策で、これは「平昌オリパラ」が終わったあたりからが警戒モードとなるだろう。判断材料は増えたものの、今年もトランプ大統領からは目が離せない。
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