なぜ「離婚男性」の病気死亡率が高いのか 糖尿病で妻帯者の12倍、死別者よりも高水準

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つまり日本人男性の場合、極端に配偶者依存度が高いため、そうした相手と離別・死別してしまうと、その状態のショックから立ち直れない人が多いと考えられます。なぜ離別のほうが死別よりも死亡率が高く出るのかについては以下のように推測します。

死別の場合は、事故などの突発の事態を除けばある程度事前の覚悟が可能です。亡くなれば当然喪失感はありますが、添い遂げたという思いもあることでしょう。しかし、離別というものは相手によって自分が拒絶されるという状態です。ある意味、自己否定を感じることになります。

先ほどのデータのように、極度に精神的に依存しきっている配偶者から完全なる自己否定を突き付けられると、離別男性は相当の絶望感を感じることになるのではないでしょうか? そうした状態におけるストレスとは相当なものです。ストレスは万病の元と言います。ストレスによって暴飲暴食や過度のアルコール摂取行動が誘引されるリスクもあります。配偶者以外に頼れる人がいるならまだしも、友人もいないという状態だとなおさら孤独感にさいなまれることでしょう。

アメリカのブリガム・ヤング大のホルト・ランスタッド博士が2010年に発表した対象者30万人に及ぶ膨大なメタ分析(統計的手法を用い、複数の論文のデータを定量的に分析する手法)結果によると、喫煙、飲酒、運動不足、肥満などの因子よりも、「人とのつながりが少ない」ことのほうが死亡リスクを高めると報告されています。つまり、人とのつながりがない社会的孤立が人の健康を最も害する要因というわけです。そう考えると、離別男性の異常な死亡率の高さもうなずけるというものです。

ソロで生きる力とは「人とつながる力」

実は、ここにこそ拙著『超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃』にも書いた「ソロで生きる力」の重要性が隠されています。「ソロで生きる力」とは、「人とつながる力」です。他者との接触を断絶し、部屋に引きこもって孤独の状態を耐え忍ぶ力ではありません。人は一人では生きていけません。「ソロで生きる力」とは何者にも依存しないということではなく、依存することのできる多くのモノや人に囲まれて、自ら能動的に選択し、自己決定できる状態にあることを指します。それこそが本当の意味の「精神的自立」なのです。

逆に言えば、1つしか選択肢がないとか、1つの場所にしか居場所がないという「唯一依存」が最も危険なのです。配偶者だけに依存しきっている男性が、配偶者がいなくなると陥るのはまさにそうした空虚感で、相手の存在が消えるとともに自分自身の存在も消失してしまうのでしょう。

老後のために資金を貯金することには熱心でも、もっと大事な「人とのつながり」を貯金することを忘れてはいないでしょうか。繰り返しますが、「結婚したとしても誰もがソロに戻る」のです。配偶者との別離は高齢者になる前から起こりえます。結婚している男性の方こそ、万一の際に備えて、自身のネットワークを拡充し、配偶者以外の人とのつながりを充実させていってほしいものです。

荒川 和久 独身研究家、コラムニスト

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あらかわ かずひさ / Kazuhisa Arakawa

ソロ社会および独身男女の行動や消費を研究する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、がある。

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