NHK受信料「徴収督促チップ」が全テレビに!? 全対応機にACASチップを入れるのは不当だ

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“ほかにも公共放送のためにCASを導入している国があるのでは?”という主張もあるかもしれない。そう考えてCAS内蔵テレビ、あるいは現行B-CASのようなカード式のCASを導入している国がないか?とテレビメーカーなどに尋ねてみたが、そうした仕組みを組み込んだテレビは日本以外で販売されていない。

なぜなら(繰り返しになるが)有料放送事業者は、事業者側の負担でCASに相当する仕組み(装置)を配布しているからだ。つまりテレビ本体に内蔵させる理由はない。

総務省の考えは?

このような状況において、次世代デジタル放送を推進する立場であり、NHKの所轄官庁である総務省はどのように考えているのだろうか。実は昨年12月5日、総務委員会の質疑応答で「ACASチップ内蔵に関して利害のある消費者の意見を聞く場が必要ではないか」との質問が出た。

これに対する総務省の答えは「情報通信審議会でACASチップについて、オープンな手続きを経て秘密鍵を、暗号の強度を向上するという観点から技術標準を定めた」といった答弁がなされた。しかし、ここまでお読みの読者ならわかるように、そもそも暗号化とコンディショナルアクセスは別次元の議論だ。

また情報通信審議会でメーカーも参加して決められたのはACASの仕組みについてであり、それを(カードなどではなく)本体に内蔵することを必須とする取り決めではないことに留意する必要がある。

さらに言うならば、新CAS協議会の代表理事、事務局長、運営委員長はNHKの幹部・職員で固められている。これが放送法20条で規定されている、受信用機器や部品の事業に干渉してはならないという規定に(解釈次第では)違反しているとも考えられる。

昨年末の最高裁判断以降、NHKの受信料に関する議論が活発になっている。はたしてNHK受信料徴収を促すメッセージ表示だけのためにACASチップを内蔵する必要があるのかどうか。放送に関する技術仕様は一度決めれば簡単には変えられない。12月1日という期限をいったん頭の中から外して考え直してみるべきだろう。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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