航空業界の将来を左右する新素材「SiC繊維」 日本カーボンと宇部興産しか作れない

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しかし、ターゲットの本丸は航空機であり、航空機エンジンへの採用に向けて開発を進めている。宇部興産のチラノ繊維を使用したエンジンを航空機に搭載してテストするのは2019年ごろの予定だ。

SiC繊維。軽量かつ高強度、耐熱性を兼ね備えた新素材として注目されている(写真:宇部興産)

また、経済産業省の「次世代構造部材・システム技術に関する開発事業」に参画してシキボウ、IHIとともにSiC繊維を用いたエンジン部材開発に取り組んでいる。

山口県宇部に生産能力10~20トンの試験プラントを持つが、新たに準量産ラインを建設中で2018年末に稼働する。宇部興産の永田啓一ポリイミド・機能品事業部長は「2030年以降には100トン程度の生産体制になるだろう」と言う。

炭素繊維の100倍という価格が課題

関連機器も動き始めた。住友電工傘下の電力機器メーカー、日新電機の子会社であるNHVコーポレーションは電子線照射装置を製造している。この装置でSiC繊維に電子線を照射するとSiC繊維の耐熱性・強度・耐久性が向上する。特に耐熱性は従来のSiC繊維よりも500度アップする。

2016年には日本カーボンとGE、サフランの合弁会社向けに納入し、米国の航空機用部品メーカーからも受注した(同社は米国企業名と受注額を非公開)。NHVコーポレーションでは2020年までに電子線照射装置の売上高を現在の約2倍の100億円にする予定だ。

SiC繊維の問題は価格が高いこと。炭素繊維は1キログラム当たり3000~1万円だが、SiC繊維は炭素繊維の約100倍。しかし、航空機の燃費改善は避けられない課題であり、需要拡大は間違いない。

将来的にはエンジンの燃焼室やタービンといった高温エリア以外の部分でもSiC繊維の採用が見込まれる。航空機で実績を積んだあとには火力発電タービンに採用される可能性もある。需要拡大に伴う量産化で価格低下が進むだろう。

田宮 寛之 経済ジャーナリスト、東洋経済新報社記者・編集委員

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たみや ひろゆき / Hiroyuki Tamiya

明治大学講師(学部間共通総合講座)、拓殖大学客員教授(商学部・政経学部)。東京都出身。明治大学経営学部卒業後、日経ラジオ社、米国ウィスコンシン州ワパン高校教員を経て1993年東洋経済新報社に入社。企業情報部や金融証券部、名古屋支社で記者として活動した後、『週刊東洋経済』編集部デスクに。2007年、株式雑誌『オール投資』編集長就任。2009年就職・採用・人事情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げ編集長となる。取材してきた業界は自動車、生保、損保、証券、食品、住宅、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、化学など。2014年「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職

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