楽天優勝の立役者は、42歳の元外資金融マン チームを変えた、新社長の「巧みな戦略」と「熱き思い」

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なぜ右打者に補強を絞ったのか

立花は自身の球団社長としてのスタンスについて、「私の仕事のやり方は、他球団の社長とは明らかに違うと思う」と言う。たとえば前任者の島田亨は楽天グループ本隊の仕事もあり、仙台に来る日が限られていた。一般的な球団社長は、彼のように経営面に尽力し、グラウンドの話は編成担当や現場に任せることが多い。

一方、戦力強化も担う立花は仙台に常駐し、毎試合観戦してチームが勝利する方法を考え続けている。そうして昨季終盤、見えてきた課題が「右打者の長距離砲不在」だった。

立花陽三(たちばな・ようぞう)
楽天イーグルス社長
1971年東京生まれ。1990年、慶応大学総合政策学部に入学し、ラグビー部で活躍。卒業後、ソロモンブラーズ証券に入社。ゴールドマン・サックス証券を経て、メリルリンチ日本証券にて、債券営業統括本部長として活躍、11年に常務執行役員に就任。12年8月より現職

「チームの投手力はそんなに悪くないが、得点数が低い。その課題を見つめ、『得点を取れる選手を取ってこよう』となった。ドラフトで新人を取っても、戦力になるまでに年数がかかる。われわれがオプションで持っているのは外国人を取ること。その中で必要なのは長打なのか、単打か。右打者なのか、左打者なのかと考えた」

2012年の楽天は、総失点がリーグで3番目に少ない467だったのに対し、総得点は4位の491。チーム本塁打はリーグ最少の52本だった。新シーズンに向け長打力アップが求められた中、なぜ右打者に補強ポイントを絞ったのだろうか。

「うちの主力には左打者が多いので、左打ちの外国人を加えると打線に左打者ばかりが並ぶ。左打者=左投手を打てないという因果関係は、いいバッターを見ているとあまり感じられないが、うちにはあまり打てない左打者もいる(苦笑)。そのバッターが左投手をぶつけられることが多くなって打てなくなると、チームの総力が低下する。それならば、右打者を取ったほうがいいとシンプルに考えた」

今季、楽天で大きく飛躍を遂げたのが銀次、枡田慎太郎の左打者だ。前者は主に3番、後者は6番を任されている。2人をつなぐ4、5番打者がジョーンズとケーシー・マギーの右打者だ。

実は昨季終了後、楽天がリストアップした外国人選手のトップ評価はある左打者だった。しかし、個の能力のみに目を向けるのではなく、「この選手がチームに最適なのか」「この外国人選手が打てなかったとしても、周りが打てばいい」と多角的な視点で議論し、右打者の補強という結論が出た。

そうして獲得に動いたのが、メジャーリーグで通算434本塁打、1998年から10年連続で外野手としてゴールドグラブ賞を獲得した実績のあるジョーンズだった。実力はもちろん、ジョーンズは楽天に必要な要素を備えている可能性があると立花は考えた。

「うちは若いチームだから、つねに試合に出る野手の中に本当のリーダーが必要。打つこと、いいプレーをすることはもちろん重要だけど、チームのコアになる人間がもっと重要になる」

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