安倍首相が挑む「改憲双六」の上がりはいつか 本丸の「9条自衛隊明記」には国民投票の壁

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自民党内でも総裁選出馬に意欲を示す石破氏が「改憲論争を総裁選の焦点にすべきだ」と早期の自民改憲案とりまとめを牽制している。このため、党内にも「党改憲案は総裁選での首相圧勝をテコに総裁選直後にまとめ、秋の臨時国会以降の発議を目指すほうが党内摩擦が少ない」(自民長老)との見方も広がる。その一方で、自民党内には「国会発議が来年にずれ込むのはまずい」(推進本部幹部)との声も出ている。

国会での改憲論議を進めるうえで、2019年前半の政治日程は「極めて窮屈」(政府筋)で、4月の統一地方選、4月30日の天皇陛下退位と5月1日の新天皇即位、通常国会終了後の参院選と、重要な政治日程が目白押しだ。一時党内に浮上した「2019年春発議→参院選と改憲国民投票の同時実施」という案が困難視されているのも、「天皇退位―新天皇即位という重大皇室行事は静かな環境で迎えるべきで、直前の国会発議は避けるべきだ」(政府筋)と判断しているからだ。

ただ、さらに発議を先送りすると、2019年参院選が大きなハードルとなってくる。自民党が5年前の圧勝(65議席)を再現することは難しく、2016年参院選の55議席前後を維持したとしても参院での自民過半数割れは避けられそうもない。さらに、改憲勢力とされる希望、維新両党に勢いがない現状から「参院での改憲勢力3分の2維持は困難」(自民選対)との見方が支配的だ。とすれば、衆参3分の2以上の改憲勢力による国会発議は2019年通常国会末が「事実上のタイムリミット」(政府筋)ということになる。

首相サイドが2018年中の国会発議を目指すのは、こうした政治日程の壁が背景にある。総裁選で改憲論議を経て首相が圧勝すれば、9条改正も含めた自民改憲案は総裁選後にすんなりまとまる可能性が大きい。それまでに時間をかけて公明党の協力を取り付け、9条改正に理解を示す維新とも連携して年内発議に持ち込めば、2019年春の統一地方選前の国民投票が可能となる。しかも、国民投票で改正が決まれば、新天皇即位に合わせての改正憲法公布という「歴史的区切り」も現実味を帯びる。まさに「安倍改憲を政権のレガシー(遺産)としたい首相にとってのベストシナリオ」(自民幹部)というわけだ。

9条改正は「暴走より急がば回れ」が現状

ただ、9条改正には「国民投票の壁」(公明党幹部)がある。最新の主要メディアの世論調査でも「9条改正には反対」が過半数だ。国民投票は改正項目別の〇×投票となる見通しだが、首相が本丸と位置づけた「9条改正」が反対多数で否決されれば「事実上の首相不信任で、退陣表明に直結しかねない」(自民長老)のが政界の常識だ。首相も「国民投票での過半数の賛成が見込めなければ発議などできない」と漏らしているという。「改憲を急いで退陣に追い込まれては、元も子もない」(首相周辺)というわけだ。となれば、首相が1強を維持し続けても安倍改憲の早期実現は「至難の業」(首相経験者)ともみえる。

首相は3日に出演した民放テレビ番組で、これまでに嫉妬した政治家を問われると、石原慎太郎元東京都知事を挙げた。「芥川賞作家でヨットが好きで、かつ政治家。永田町にも霞が関にも世論にもつねに挑戦的でかつイケメン。何でも言いたいことを言いながら、すべてを手に入れている」のが理由だという。高齢になっても政界を騒がせ続けている石原氏は「暴走老人」を自称しており、首相の告白は「自分も暴走したいという本音の表れでは」(周辺)との見方もある。しかし、改憲双六で念願の上がりにたどり着くためには「暴走より、急がば回れ」(自民長老)というのが現状といえそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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