安倍首相が挑む「改憲双六」の上がりはいつか 本丸の「9条自衛隊明記」には国民投票の壁

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憲法96条と国民投票法などに基づく改憲への具体的手続きは、(1)衆参両院の憲法審査会での改憲項目絞り込み、(2)同項目に関する衆参両院本会議での3分の2以上の賛成での国会発議、(3)発議から60~180日の間に実施される国民投票での賛成多数、(4)天皇陛下による30日以内の改正憲法公布、となる。首相にとって、その中では(1)と(2)が当面の政治的ハードルだ。

国会での改憲項目絞り込みのためには、まず自民党が具体的な「改憲案」を国会に提起する必要がある。そのうえで野党側の対案も含めて憲法審査会で審議し、3分の2以上の賛成が見込める改憲項目をまとめ、衆参本会議で可決しなければ国民投票までたどり着けない。だからこそ首相は「まず国会での真剣な論議」を主張しているのだ。

「9条見直し」で合意強要なら、自公に亀裂も

首相が2017年5月3日の憲法記念日に公表した「安倍改憲」案は、憲法9条での自衛隊明記や2020年の改正憲法施行という踏み込んだ内容で、首相は昨年末の講演で「停滞した議論を後押しするために一石を投じた。ただ、その石があまりにも大きすぎ、その後が大変だった」と苦笑交じりで振り返った。首相の念頭には「2017年秋の自民改憲案とりまとめ」があったとされるが、突然の改憲案提起に野党だけでなく、自民党からも不満が噴出したからだ。 

しかも、その後の「もり・かけ疑惑」などでの内閣支持率急落もあって、党憲法改正推進本部での論議は遅々として進まなかった。同本部がようやくまとめた2017年末の「改憲4項目の論点整理」でも、肝心の「9条への自衛隊明記」は首相が提起した「9条1、2項維持」と、石破氏らが主張する「2項削除」の両論併記にとどまった。推進本部は「党内は首相案支持が多数なので、通常国会で予算が成立する3月中には党の改憲案はまとめられる」(幹部)としているが、与党の公明党は「9条見直し」への慎重姿勢を変えていない。自民党が公明党に合意を強要すれば与党内に亀裂が生じる可能性も小さくない。

首相は1月7日のNHK番組で「スケジュールありきではないが、国会でしっかり議論していくことが第一だ」と通常国会での自民案提起とそれに対する与野党論議の進展を促した。しかし、山口那津男公明党代表は「十分な国民の理解や議論の成熟をもたらさなければならない」と性急な論議を牽制した。さらに、同番組に出演した野党各党党首からは、日本維新の会を除いて「9条自衛隊明記」には否定的な意見が相次いだ。「改憲勢力」とされる希望の党の玉木雄一郎代表も「自衛権の議論もなく自衛隊を(9条に)書き込むという議論は若干、不誠実だ」と指摘した。

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