JR九州「春の大規模減便」は本当に深刻なのか ローカル線本数減で「日常の足」不便になる?

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では、解決策はないのだろうか。最もわかりやすいのは、日常的な利用者の増加。しかし、人口減少に歯止めがかからず、さらに“車社会”が完全に根付いている沿線地域では利用促進と言っても簡単なことではない。“それができるなら最初から困っていない”である。

そこで可能性を見出すとすれば、観光ということになるだろう。それこそJR九州が各路線で投入して全国的にブームを生んだ”観光列車”である。けれど、観光列車と言っても「形式的に観光列車を投入するだけではなくて、路線そのものの価値向上、ひいては地域全体の活性化につながるものでなければ意味がない」(ある第三セクター路線の関係者)。これを実現するためには、鉄道事業者だけでなく地域・沿線自治体にも相応の努力が欠かせない。

「ただ自家用車から鉄道に切り替えてくれと言っても、沿線の人たちの生活スタイルを変えることは容易ではない。むしろ、本心から沿線の人たちが『なくしてはならない』『町の自慢』と思えるような価値ある路線にすることが、沿線への利用促進につながる。本質的な“路線の価値向上”をもたらす観光列車には、地域との緊密な連携、さらには地域からの自発的な動きがなければ意味がない」(前出の三セク関係者)

地域との緊密な連携を

これはもちろんJR九州のローカル線でも言えること。実際、同社はこれまで多くの路線で観光列車を投入してきた“パイオニア”でもあり、それによって路線の価値向上や地域のブランド力強化にも大きく貢献してきた。今回の減便ダイヤ改正がこうした地域との関係を傷つけることになるとすれば、それこそ路線の存続に関わる事態になりかねない。

青柳俊彦JR九州社長が「長崎新幹線が開通する2022年まで大きなダイヤ改正はない」とコメントしているように、当面沿線自治体が不安を感じている“路線の廃止”が俎上に載ることはなさそうだ。理想論かも知れないが、今回のダイヤ改正を契機に、各路線の価値を一層向上させ”単なる交通機関のひとつ”以上の存在にするべく事業者・沿線自治体双方が緊密に連携して取り組んでいくことこそが、将来にわたって現状の鉄道網を維持することにつながるはずだ。

鼠入 昌史 ライター

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そいり まさし / Masashi Soiri

週刊誌・月刊誌などを中心に野球、歴史、鉄道などのジャンルで活躍中。共著に『特急・急行 トレインマーク図鑑』(双葉社)。

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