「新線初日に脱線」米列車事故はなぜ起きたか 特急列車が高速道路に転落し大惨事に

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カーブには、本来なら遠心力を打ち消すための「カント」と呼ばれる勾配(カーブの外側を持ち上げる)を付ける必要があるが、写真で見る限りカントはほとんどついていないようだ。古い貨物線をそのまま流用したのではないかと推測できる理由はここにもある。アメリカでは、特に貨物列車の多い線区ではカントをわずかしかつけない習慣があるからだ。

事故調査委員会は、まだ事故原因については発表しておらず、各報道機関も推測でモノを言うのには慎重な姿勢を取っている。その一方で、地元紙「シアトル・タイムス(電子版)」には匿名の関係者の証言として「異物に乗り上げて脱線した」というコメントも出ているが、その信ぴょう性は明らかではない。

また、この地域のベテラン運転士の証言では、「仮にスピードオーバーなら、車両がもっと広い範囲に逸脱しているはずだ」というコメントも出ているが、前述したように盛り土に衝突したり、橋梁から落下したりしたために車両が遠くに飛ばなかっただけの話という見方もできる。

運転士のミスで済ませてはいけない

正確な事故原因については調査結果の報告を待たねばならないが、相当の時間を要する可能性もある。また、組合の派遣した弁護士が運転士の権利を擁護することで、真相究明が100%できない可能性もある。

そうした状況下で一つの仮説を立てるとしたら、やはり速度超過による脱線という「アムトラックのいつものパターン」がここでも繰り返されたということだろう。ちなみに、事故調によればこの区間では「自動速度制御装置」はオフにされていたという。

では、仮に速度超過だとして、それは運転士のヒューマンエラーなのだろうか? 今回の事故をそれで済ませてはいけないように思われる。そもそも、時速128㎞で走行できる良好な線形から、急に制限速度が時速48㎞になるという設計の悪さがあるためだ。

その理由として、カーブ区間の古い線路を流用したことがあるのならば、これは設計ミスと非難されても仕方がない。それを運転士個人の責任とするのは酷であろう。新線を通る一番列車による事故ということで、習熟運転の機会が足りなかったとか、新型機関車と旧型機関車のブレーキ協調に問題があったなど、他の要素が絡んでいる可能性もあるが、仮にそうであれば、これも経営サイドの問題である。

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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