堀潤氏「NHKの強硬姿勢は損、まず改革が先だ」 「NHKは見ない、いらない」で本当にいいのか

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――判決では公共放送や受信料制度について「合理性が今日までに失われたとする事情も見いだせない」との見解が示されました。一方で、さまざまなニュースサイトやメディア、SNSなどのツールが普及し、公共放送は生活に必須といえるのか疑問もあります。今の公共放送の役割とは何でしょうか?

日本最大の調査報道機関であり、かつメディア技術を教育啓蒙する教育機関、という点が、さまざまなメディアが乱立する中でもNHKが力を発揮できるところだ。

調査報道は非常にコストがかかるし、センセーショナルな芸能ネタや事件ネタではなく、淡々とした世界。これは民放では難しい。視聴率によってまさに秒単位で利益が変わるし、営利企業で上場もしている。そこに過度な期待を寄せるのは難しい。ネットメディアも同様だ。NHKはそうした利益から切り離されたところで、調査報道をしていくことが大事だ。

また、教育機関というのは、職業人としてのディレクターやカメラマン、ジャーナリストを育てるだけではない。これだけ誰でも発信できる時代になったのだから、ジャーナリズム学校を作って運営するなどで、一般の人にもメディアリテラシーを伝えていくこと。しかも無料もしくは安い授業料でだ。放送ジャーナリズムを教える学校は本当に少ないので、NHKはもっと存在感を発揮してほしい。

草の根の声をもっと拾うべき

日本の言論がもっと多様性を持てるために、草の根でいろいろな声を拾えることができるようにする。そこに公共放送がきっちりとコミットし、市民と一緒になってやるべきだと思う。自治体もベンチャーもNPOも、みんなが発信力に悩んでいる。自治体が地域興しのPRをするために、ものすごく多額のおカネを広告代理店に支払ったが、それが炎上してしまい、すぐ取り下げるみたいな……。そんな話を聞くと、ものすごく胸が痛む。NHKだったらもっとできたのではないか、と。

こうした取り組みにはルールも必要だが、ここは簡単だ。「公益性がある」というラインをつけて査定すればいい。たとえば、医療技術の分野で義足の開発を進めているベンチャーなどがある。こうした企業に対してどんどん発信支援をしたらいい。それは公益性が高いからだ。世の中に優れた義足が広まれば、何万人もの日常生活を回復できる。テレビだけで完結せずに、Webサイトにそうしたメーカーの一覧を掲載してもいいだろう。

――堀さんは「もっと視聴者が使えるNHKにすべき」と主張しています。

堀氏は、「NHKの施設をもっと市民が使えるようにすべき」と指摘する(撮影:尾形文繁)

本来、公共と冠のつく施設は誰もがアクセスできる。図書館も公園もそう。だが、公共放送の電波やNHKという財産は使えない。受信するだけだ。

アーカイブスにしても、なぜ開放しないのか。受信料で取材を蓄積し、とても価値の高い資源だが、さらにおカネを払って見なくてはいけない。放送事業者に対しても、「あの映像を使いたい」となったとき、民放の知り合いからは「NHKの映像を使いたかったけど、高いからやめた」という声を聞く。公共物ならアーカイブスは無料で公開するものだし、施設やスタジオ、放送機材なども、もっと市民が活用できるところにあっていいのではないかと思う。

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