日本国民が払わされかねない林業政策のツケ 「森林環境税」や「森林バンク」は本当に必要か

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それにしても、なぜスギやヒノキ、とりわけスギは日本全国で植林されたのか。

背景には、日中戦争や太平洋戦争などによって大量の木材が軍需物資として消えたという事情がある。加えて、主要都市が戦争による木造住宅の損失被害を受けて、莫大な量の木材需要が発生。日本の山林からは、大量の木材が伐採された。

こうした木材不足を補う目的で始められたのが、国を挙げての造林だったわけだ。1950(昭和25)年に制定された「造林臨時措置法」を契機に、一気に植林が進められた。長期間借りられる融資制度などもできて、山林経営者は政府に後押しされる形でスギやヒノキの植林事業に精を出した。

針葉樹ばかりになって広葉樹の植林が進まなかったのは、昭和30年代から40年代に急速に普及していく石炭や石油などの化石燃料の普及と深い関係がある。広葉樹は山を豊かにする貴重な資源なのだが、安価な石炭や石油が入ってきて植林しても採算が合わなかったのかもしれない。

とはいえ、当時はまだ地球温暖化の問題もなかったし、木材不足に対応するとはいっても、伐採に至るまで40年もかかった。それでも日本の森林の4割にも相当する面積へ集中的に植える必要はなかったかもしれない。そして途中で何らかの方向転換もできなかった。

特に悔やまれるのは、地域の特性に応じた森林資源の有効活用ができなかったことだ。その地域の特性に応じた森林活用を行えば、日本全国がスギだらけになることはなかったはずだ。いずれにしても、スギ花粉症が問題となり、木材価格が下落して採算が取れないスギを全国一律で植林した政策は、どうひいき目に見ても成功したとは言えない。

画一的な政策は失敗のもとだ!

主な弊害を簡単にピックアップすると次のような項目が考えられる。

需要予測の過ち……スギが商業的に採算が取れなくなり、日本の林業に大きなダメージを与えた。終戦直後は木材不足が深刻だったものの、格安の輸入木材が普及して採算割れとなり、スギの立木価格は、全国平均(北海道、沖縄を除く)の利用材積1立方メートル当たり2645円(2013年3月末、日本不動産研究所調べ)で、過去最高だった2万2707円(1980年、同)の約10分の1になっている。

画一的な政策の失敗……地域の特性を考えずに、画一的にスギの植林事業を進めたために、日本の山林全体の4割をスギやヒノキにしてしまった。日本の国土面積の25%以上を、長年にわたって利益の生み出せないエリアにしてしまったことになる。加えて7500億円の損失とも言われるスギ花粉症の原因を作り出してしまっている。国家的な経済損失は極めて大きい。

林業が衰退し、森林資源の管理が停滞……輸入木材の普及によってスギ木材の価格が下落し採算が悪化。スギ山の手入れなどを放棄せざるをえなくなり、数多くの山林運営者が山を放置した。その結果として山林が荒れる結果を招き、スギの生育にも悪影響をもたらした。災害に弱い山林を増加させる結果をもたらした。

過度な規制や基準を放置させた……木材価格が輸入品によって大きく下落するのは、すでに数十年前からわかっていたことだ。その結果、民間事業者の自立的な林業経営が苦境に陥ったことも、農水省関係者は十分に把握していたはずだし、政治家も認識していたはず。にもかかわらず、林業に携わるさまざまな規制や基準を緩和せずに、民間事業者がより自由なビジネスを行うチャンスを約半世紀にもわたって放置し続けた。

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