松屋銀座に「GINZA SIXの客」が流れ込むワケ 「脅威」を「好機」にした老舗百貨店の熟練戦術

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松屋銀座のリビングフロアではムーミンのイラストが入った食器が販売されていた(記者撮影)

「最近の催事は写真を撮ってもらって、インスタグラムなどのSNSで発信してもらって『なんぼ』の世界」(松屋銀座の担当者)と、エレベーターの扉や通路案内など店内の随所にムーミンのイラストをあしらうなど、ファンを意識した細かな仕掛けも打った。

それだけではない。ムーミンの作家トーベ・ヤンソンがフィンランド出身ということもあり、松屋銀座はムーミン展と同時に、「ライフ イン フィンランド」展を開催。7階のリビングフロアではフィンランドの食器や家具などを販売。地下の食品売り場には、日本初上陸となるフィンランドのクラフトビールやチョコレートをそろえた。

状況が一変するリスクも

ほかにも、11月の初旬に展開した「アロマフェア」では35~50歳の女性をメインターゲットに100種類以上のアロマを販売したほか、毎年2月ごろに開く「中古カメラ市」や、春と秋に行われる「着物市」も顧客からの支持が高く、定番催事となっている。

これらの取り組みが実を結びつつあり、松屋の今上期の売上高は426億円(前年同期比2.2%増)、営業利益5.6億円(同122.2%増)と増収増益で着地。通期でも売上高890億円(前期比3.1%増)、営業利益19億円(同53.1%増)と、回復軌道を描く。

ただ、松屋銀座の改装費用や減価償却費が利益を圧迫し、2016年2月期の水準(売上高929億円、営業利益26億円)には達していない。集客は順調ながら、現在旺盛な訪日客需要は各国の政策ひとつで状況が一変するリスクもはらんでいる。催事強化という「熟練戦術」で本格回復を狙う松屋だが、同時に外部環境の変化に耐えうる「次の一手」も求められている。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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