遺伝子情報から「個人の運命」は断定できない 遺伝子は「設計図」ではなく「レシピ」だ
著者のアダム・ラザフォードは、ロンドン大学ユニヴァーシティ・カレッジ出身の理学博士で、眼の発生にかかわる遺伝子の研究者として知られる。雑誌『ネイチャー』の編集部に約10年勤務したあと、科学ジャーナリストとして、雑誌『ガーディアン』に定期的に寄稿し、BBCラジオのチャンネル4で、いくつもの重要な科学番組をプロデュースするなど多方面で活躍している。
人類進化の実像をわかりやすく解説
本書は、2014年の『創造ーー生命の起源と生命の未来』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)につぐ、2作目の本格的な単行本。原題はA Brief History of Everyone who Ever Livedで、直訳すれば、『これまで生きてきたすべての人間についての簡潔な歴史』というところだろう。
著者は、上記のような経歴の持ち主なので、啓蒙書の書き手としての腕は確かであり、随所に皮肉やユーモアをまじえた本書は、読み物としてきわめてよくできている。
全体的な内容は、ヒトゲノム計画以降のここ10年ほどの分子遺伝学の成果、ことに化石人類に含まれる微量のDNAを抽出して解読する技術の発展がもたらした知見をもとに、人類進化の実像を、明快かつ平易に語ったものである。
20世紀末までは、古人類学はもっぱら、化石人骨と、洞窟壁画や土器・石器などの遺物に頼らざるをえなかった。歴史時代についても、断片的に残されたわずかな文書記録と、さまざまな歴史遺構しか手がかりはなかった。しかし、DNAの塩基配列の解読は、人類史の解明にまったく新しい地平を切り開くことになった。
なによりも重要なのは、化石からはその特定の個人の情報しか得られないのに対して、塩基配列は、その個人が属する種、集団、民族についての情報をもたらしてくれることだ。
もちろん、1人1人のゲノムは同じものが1つとしてないという意味で唯一無二のものであるが、その個人差は、集団のなかの変異であり、他のゲノムとの比較によって、集団のもつ遺伝子の総体、すなわち遺伝子プールを明らかにできるのである。
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