鉄道「高速化競争」から欧州が離脱した理由 「世界最速」の中国とは異なる事情がある

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イタリア国内は、トリノ―ミラノ―ボローニャ―フィレンツェ―ローマ―ナポリと、主要都市を南北に結ぶルートに高速新線が建設されているが、このうち時速360km運転を考慮して線路間隔や曲線が設計されている区間はトリノ―ミラノ間のみで、ほかの区間は線路の改良が必要となる。比較的新しいミラノ―ボローニャ間も、規格としては走行可能だが、土地収用問題があったモデナ付近に制限速度240㎞の急なカーブが存在し、現在もすべての列車がここでの減速を余儀なくされている。

つまり、現状の設備では全区間で時速360km運転が可能なのはトリノ―ミラノ間だけということになる。同区間の距離はわずか142kmで、所要時間は現時点でも1時間を切っており、例え360km運転を実現したとしてもその短縮効果は数分程度。この区間だけでは費用対効果は薄いというわけだ。

なぜ「イタロ」新型は遅くなったか

イタロの初代型であるETR575形は、アルストム社の動力分散型高速列車AGVを採用。最高速度は時速300kmで、360km運転も可能だ(筆者撮影)

さて、かなり前置きが長くなったが、最初の話に戻ろう。フランスのアルストム社は、中~高速向け車両として、タイプの異なる3車種を用意している。有名なTGV、その派生形のAGV、そして「ペンドリーノ」だ。TGVは今さら説明するまでもなく、フランスの高速列車として、今も改良を重ねながら増備が進められている。

イタロEVOのベースとなった「ペンドリーノ」型車両であるスイス国鉄のRABe503型電車。スイスの山岳区間を走行するため、車体傾斜装置を搭載している(筆者撮影)

AGVは、両端に機関車を配置した動力集中方式のTGVに対し、日本の電車と同じような動力分散方式を採用した車両で、最高時速300km以上の列車に使用するために開発された。これがイタロの初代車両、ETR575形のベースとなっている車両だ。「ペンドリーノ」は主に250㎞までの中速列車に使用するための車両で、元をたどればイタリアのフィアット社が開発した振り子式特急車両。同社がアルストム社に吸収されてからは、同社の製品ラインナップに加えられた。

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