死体が存在した「事故物件」をどう見分けるか 座間「切断遺体」現場となったアパートの運命

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一方で売買の場合、5年から10年経過しても告知義務ありとした判例が多い。借りるのと買って住むのとでは、当事者に与える影響が違うからだ。また、都市ではなく農村部になると、さらに状況が変わる。地域における人の入れ替わりが少ないため、「近隣住民の事件の記憶はより長く残る」として、50年前の殺人事件についてであっても、売買時に告知義務があるとした判例がある。田舎のほうがオーナーにとっては厳しい状況が続くのだ。

では、住人が室内で自殺を図り、病院で死亡した場合はどうなるのか。この場合は、事故物件として告知義務があるかどうか、専門家の間でも意見が分かれるようだ。現実には室内ですでに死亡していたものの、あくまで医師の判断をもって最終的な確認がなされるため、形の上では病院で死亡と判定されるケースも想定されるためである。

注意したいのは、孤独死の場合は原則として「自然死」として扱われ、一般に事故物件として扱われることはないということだ。死体がその部屋にあったという事実で考えれば、事件でも自然死でも変わらないはずだが、扱いはそのようになっていない。ただし、死後時間が相当程度経過することで死体が腐乱し、異臭が出たような場合は別だ。こうなると事故物件扱いになることが多いため、孤独死が放置される事態はオーナーにとって死活問題である。

「心理的瑕疵」の感じ方は人それぞれではあるものの…

自殺があったものの、その後建物が取り壊されたケースにおいて、判例は真っ二つに分かれ、その影響がどの程度あったかについて個別に判断される。マンションなどで飛び降り自殺があった場合には、取引慣行としても告知するのが一般的だ。しかし、隣室で事故があった場合でも、そのことは告知されないことが多い。いずれにせよこうした「心理的瑕疵」をどう感じるかは、人によってその程度は大きく異なる。

敷地内で事故が起きた自己所有の不動産を賃貸・売却する場合は、事前に不動産業者・弁護士などの専門家に相談し、告知の必要があるかどうか、慎重に判断するのが賢明だ。判断を間違えると、後でトラブルになりかねない。また、こうした事故物件に住みたくない人は、その不動産を扱う不動産業者に直接、事故の有無を尋ねよう。こうしておけば、不動産業者が知っていて告知していない場合には責任を問えるからだ。売り主が黙っていて不動産業者が知らないケースに備え、「売り主に事故の有無を確認してください」としておけばベターだろう。

また、事故物件の情報を収集・公開しているサイト、「大島てる」を活用するのもいいだろう。ユーザーからの情報提供をグーグルマップで集約。該当物件の事故の有無、日付や事故の内容などを閲覧することができる。ただ、4万件以上の事故物件が登録されているが、このサイトに掲載されているのは情報提供があった不動産に限られ、あくまで氷山の一角であることは理解しておきたい。

一方、ここでは住居以外のホテルなどで起きた事故についても記載されているため、部屋を選ぶ際にこうした物件を避けることができる。また、自然死も一律に事故物件として登録されていることも特徴だ。告知されていなくても、自分が借りた、買った部屋で人が死んでいたという過去が発覚する可能性がある。

今回の事件が起きた座間のアパートのような事故物件であっても、家賃が安くなるならそれでよいと割り切る人もいるかもしれないが、大半の人にとってはネガティブに感じることであるのは事実だろう。「知らぬが仏」という言葉もあるが、住居は自分の生活そのもの。物件の過去については、買う、借りる前にきちんと調べたほうが安心できそうだ。

長嶋 修 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長)

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ながしま おさむ / Osamu Nagashima

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。以降、さまざまな活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。主な著書に、『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)、『「マイホームの常識」にだまされるな!知らないと損する新常識80』(朝日新聞出版)、『これから3年不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)など。さくら事務所公式HPはこちら
 

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