仮設住宅での40代孤独死、なぜ防げないのか 福祉とのつながり欠く、安否確認活動の限界

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取材を進めていく中で、市の委託で生活困窮者を支援するNPO団体にアヤさんの情報が伝えられていなかったことがわかった。仮設住宅で起きている問題については、2カ月に1度開催される「地区ミーティング」で情報が共有されているが、困窮者支援にかかわる団体はメンバーには入っていなかった。

「当事者の方に壁を作られてしまうと本当に接触が難しい。会うことを拒絶されるとそれっきりになってしまう」。前出の課長はフォローの難しさをこう説明した。仮設住宅の入居期限が近づく中で、転居を求める行政との接触を避けていたことも想像できる。

見守り主体の限界

アヤさんの事例から浮かび上がるのが、見守りや安否確認を主体とした仮設住宅での支援活動の限界だ。

気仙沼市では震災後に国の法改正を踏まえて「被災者台帳」を作成し、住まいに関する支援制度の活用や義援金受け取りの状況などを個々人ごとに一目でわかるようにしている。しかし、そこには生活保護や障害者福祉制度の利用などの福祉関連の情報は含まれていない。

震災後に導入されたサポートセンターによる見守り活動も、その多くは高齢者とした安否確認にとどまっている。助けが必要な被災者一人ひとりに寄り添い、個々人が抱える生活面での問題解決に一緒に取り組む例はあまりない。

友愛訪問員や生活支援相談員など、市役所から委託を受けた臨時職員が見守りや安否確認活動を担っているが、「自分たちで問題解決するのでなく、事実確認をしっかりしてサポートセンターにつなぐのが仕事である」と、気仙沼市の内部資料には記されている。あくまでも支援の必要性について判断するのは市役所の担当課だとされている。

仮設住宅の入居率は9%まで下がっている(記者撮影)

アヤさんの死亡について、気仙沼市では「孤独死とはとらえていない」(前出の生活保護担当部署の課長)という。その理由について、課長は「周りの人たちとの交流がなかったわけでない」ことを挙げている。「年齢が若く、すぐに生命の危険があるとは思いも寄らなかった」(同課長)ともいう。しかし、そのとらえ方はあまりにもしゃくし定規ではないか。

貧困問題や震災被災地の事情に詳しい湯浅誠・法政大学教授は、「今の仮設住宅では入居者の多くが転居し、空き部屋ばかりになっている。被災者の孤立リスクは非常に高く、とりわけ生活困窮者は支援制度の谷間に落ち込んでしまいがちだ」と指摘する。

湯浅氏は、「分散していた仮設住宅が集約され、転居が繰り返される今の時期は、残された人が非常に危うい状態にあるという認識で個々人の問題に対処すべきだ」と言葉を続ける。

気仙沼市によれば、プレハブ仮設住宅の9月末の入居は309世帯、658人。入居率は昨年9月末の49%から9%へと大きく下がっている。もはや住民同士の支え合いは機能しなくなっている。その中に、自らSOSを発することができない弱者が取り残されている可能性がある。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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