日本企業が入札できない?鉄道輸出の矛盾点 インドネシア案件、調査は日本の担当だが…

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今回のジャワ北本線高速化事業は、インドネシアの希望により円借款ではなく、官民パートナーシップ(PPP)により推進される見込みである。土木工事は純粋なインドネシア企業と資金で実施される可能性は高い。

JR北海道が開発を断念したキハ285(写真:amuz583z/PIXTA)

となると、残るは高速運転用の車両調達である。これも予算を抑えたいインドネシア側は、当初CC206型機関車の改良を検討していたようだが、本来貨物機である特性上、低速での牽引力を重視して、中高速域での加速性能が低く設定されているため、CC206の高速対応というのは、あまりにも現実離れしている。新車両の投入は、誰が見ても避けられない状況である。

だが、ここにも問題が立ちはだかる。現在日本で140㎞/h走行以上の性能を持つ、ディーゼル車両は開発されていないのだ。最もそれに近いスペックを持っていたのが、JR北海道が開発していたものの、断念してしまったキハ285である。しかも最新の発表によると北本線では160km/h運転が有力視されている。いずれにせよ、開発費が相当かさむことは避けられず、国際入札にかけられた場合、日本が受注できる可能性は低い。

いい加減な予算では日本メーカーは入札しない

かつ、F/S調査の結果はじき出されたいい加減な予算では、先のフィリピンの例のように日本の車両メーカーが入札を拒む可能性が極めて高い。これこそが、日本の鉄道インフラ輸出が進まない最大の要因であるのだが、もし本当に鉄道を世界に売り込むなら、綿密な予算の策定は絶対条件だ。さらに、メーカーへのなんらかの資金援助がなければ、国際入札で勝つことはできない。中国中車、そしてシーメンスやアルストムが世界で勝てるのは、バックに国の手厚い支援が存在するからだ。

では日本がなすべきことは何なのか。その答えを導く前に、ジャカルタ―スラバヤ間約751kmは東京―岡山間に匹敵する、というレトリックから解放されなければならない。これにだまされてはいけない。あくまでも距離の比喩にはなっているが、インドネシア第二の都市スラバヤは、東京と大阪のようにジャカルタに並び立つものではなく、単なる地方都市にすぎないのだ。時刻表を見れば一目瞭然だが、北本線はジャカルタを起点とした先細りダイヤである。だから、東京―新大阪間のようなビジネス需要などない。また、北本線には単にジャカルタ―スラバヤ間を結ぶ列車以外に、バンドン方面、ジョグジャカルタ方面への直通列車も多数設定されている。バンドン方面は、ジャカルタ―バンドン間の高速鉄道が完成すると在来線特急は廃止となろうが、ジョグジャカルタ方面の需要は、スマラン、スラバヤ方面への需要よりも圧倒的に高い。

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