インドネシア在来線高速化も中国が奪うのか 成立寸前でさらわれた高速鉄道の二の舞いも

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F/S調査とは実現可能性を調査するのだから、本来であれば事業妥当性・輸送量・需要予測・運行計画・用地取得等が詳細に精査されなければならない。しかし、実現可能性を調査するとは名ばかりで、この調査の結果、事業が中止になるということはまずない。事業化ありきの調査である。だから、正直ずさんとしか言えないような報告もまれに見られるのも事実だ。

典型的な北本線の風景。郊外に出ると田畑の真ん中を線路はひたすら突っ切ってゆく(筆者撮影)

2015年にジャカルタ―バンドン間の高速鉄道(新幹線に相当)は日本の受注が確実視されていたものの、一転、政治的目論見から入札そのものが取りやめになり、その後、中国による着工が決定した。この事業は前ユドヨノ大統領の肝いり案件であったが、2014年の大統領選挙で、現ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が就任し、すべてがひっくりかえってしまった。大統領ならびにリニ・スマルノ国営企業相の画策により、初めから中国ありきで話が進んでいたというのは、すでに知られているところだ。

加えて建設許可取得の遅延(これは当時の運輸相かつ親日勢力の急先鋒、イグナシウス・ヨナン氏の力によるものが大きい)、土地収用問題、中国からの資金融資の滞りなど、事業進捗への問題は山積している。しかし、新幹線の開業を見越して、日系企業工場も多く立地するチカラン地区における新都心メイカルタ開発計画はすでに着工されている。交通・インフラ・国営企業関係の展示会にも、ジャカルタ―バンドン高速鉄道の事業主体であるKCIC(インドネシア中国高速鉄道会社)は、毎回出展し、存在感をアピールしている。これに対する期待は当地ではまだまだ大きい。

ジャカルタ―バンドン高速鉄道の二の舞いに?

日本では「インドネシアは中国に不信感を抱いている」「だから次こそは日本が受注」という楽観的論調が散見される。さらに安倍政権が掲げるインフラ輸出戦略の名の下、2015年に敗北した雪辱を晴らさんと感情論まで見られる。インドネシアの状況を少し調べれば、日本のこのような論調には、ちょっと待てよと言いたくなる。

中国による着工が決定した当初、ジャカルタ―バンドン間の開業年度は2019年5月であった。これは今も変わっていない。しかし、仮に工事が順調に進んだとしても、工事が難しい山岳区間も含まれる中、わずか4年で開業できるわけがないというのは誰にでもわかる。

では、なぜ2019年なのか。答えは簡単で、ジョコウィ大統領は2019年に5年の任期を迎え、次の大統領選を控えているからである。つまり、開業年度の設定など支持率稼ぎための大統領の「でまかせ」にすぎないのだ。

とはいえ、インドネシアとはそれを鵜呑みにしてしまう人もいるお国柄である。予定どおりに工事が進まないなどというのは当たり前。それを中国が建設したからと追及するのはお門違いである。工期どおりに進まないからインドネシアは日本に協力依頼を要請するという見方もあるが、誰が工事を請け負おうが、結果は変わらない。

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