小田急新ダイヤで勃発、京王との乗客争奪戦 始発駅増と値下げ、どちらの戦略に軍配?

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来年3月の運賃変更を半年以上も前に発表した理由について、京王側は「早めに発表することで、加算運賃の引き下げを多くの人に知ってほしかった」と説明する。これには、定期券代を支給する企業の担当者にも知ってほしいという意味も含まれるだろう。

ちなみに京王は「値下げではなく、あくまで加算運賃の引き下げ」と強調するが、建設費の回収率は2017年3月末で9割にとどまる。100%回収できていない段階で、前倒しで加算運賃の引き下げを行うのは、小田急への対抗策と考えるのが自然だ。来年には京王のダイヤ改正も予定されている。京王はそこでも相模原線への通勤ライナー導入などさらなる対抗策を仕掛けてくる可能性もある。

京王だけでなく、JRにも戦いを挑む

小田急が朝の通勤時間帯に始発列車を増やすのは小田急多摩センターだけではない。藤沢―新宿間でJR湘南新宿ラインなどと競合関係にある藤沢では、通勤時の始発列車が8本から13本へと増える。運賃(ICカード)は小田急が586円で、972円のJRに圧勝だが、朝ラッシュ時の所要時間は小田急が1時間16分に対し、JRは58分で18分も短い。

小田急は、途中始発駅の列車を増発し、通勤時の利用客増を狙う(撮影:風間仁一郎)

しかし、ダイヤ改正後、小田急の所要時間は8分短縮され、1時間8分になる。JRとの時間差が10分にまで縮まれば、座って通勤できる小田急を利用したいと考える人も少なくないだろう。このほか、海老名、向ヶ丘遊園、成城学園前などでも通勤時の始発列車の本数が増える。

始発駅を増やす戦略以外にも、複々線化によるメリットを生かして運行本数を増やしたり所要時間を短縮したりといった策で利便性を高める駅はいくつもある。たとえば、ダイヤ改正後に快速急行が停車するようになる登戸だ。本来の目的は郊外駅の利用者に登戸で快速急行に乗り換えてもらうことで、複々線化によるスピードアップを最大限に享受してもらうことだが、それだけではない。

「都心に向かう路線はいくつもあるが、小田急とほかの路線の分水嶺に住んでいる人の中に、混まなくなった小田急を使おうと考える人が出てくるかもしれない」と星野社長は考える。文字どおり両路線の中間に住んでいる人が小田急に移行するということはあるだろう。しかし、それ以外にもJR南武線やJR横浜線の沿線住民もターゲットになる。

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