健康格差の解消には「楽しい仕掛け」が必要だ WEBメディア全文公開プロジェクト 第4回

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「健康格差」対策の成否の鍵を握る3つの可能性について考える(写真 : プラナ / PIXTA)

講談社現代新書から11月15日に発売された『健康格差 あなたの寿命は社会が決める』。著者であるNHKスペシャル取材班の「この問題を幅広く読者にアピールしたい」との熱い思いを聞き、東洋経済オンラインも全文公開プロジェクトに協力しました。本記事は第4章からの転載となります。書籍の内容を省略せずにそのまま転載しており、かなりの長文である点をご容赦下さい。

東洋経済オンライン編集長 山田俊浩

 

「低所得者の死亡率は高所得者の3倍高い」といった驚きの格差について伝えるとともに、健康寿命を伸ばすための自治体の取り組みなどについて紹介している『健康格差 あなたの寿命は社会が決める』。この「健康格差」の問題をより多くの読者に知ってほしいという著者の強い思いを受け、その問題意識に共感くださったWebメディア6社(日経ビジネスオンライン、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンライン、東洋経済オンライン、ビジネスインサイダージャパン、ハフポスト 順不同)に、出版社メディアの垣根を越えてご協力いただき、現代ビジネスを含めた計7媒体合同で本書の全文公開を行うことを決めました。(講談社現代新書編集部)

第4章 「健康格差」解消の鍵は?

全文公開プロジェクトの詳細はこちら

第3章では、「健康格差」を解消するための国内外の取り組みを紹介した。共通する点は、健康リスクを抱えている人たちに限定した取り組みではなく、全体を巻き込んだ包括的な施策だった点にある。対象を限定しない「ゆるやか」な取り組みが、なぜこのような成果をあげることができるのか。

本章では「健康格差」対策の成否の鍵を握る3つの可能性について掘り下げて考えてみたい。1つ目が「ポピュレーション・アプローチ」。2つ目が「ソーシャル・キャピタル」。そして、3つ目が「楽しい仕掛け」である。

健康へのリスクが高い人たちを選び出し、その人たちに重点的に施策を講じる手法を予防医学の専門用語で「ハイリスク・アプローチ」と呼ぶ。くだけた言い方をすれば「狙い撃ち」である。

この手法は、合理的かつ効率的なものとして、かつて結核などの伝染病対策で高い効果をあげた。「健康格差」対策でも、健康を害しやすい層にターゲットを絞って取り組めるのではないかと考えがちだが、千葉大学教授の近藤克則さんは、この手法は「健康格差」対策では「うまく機能しない」と分析する。

それは、どうしてか。近藤さんは国が主導した「メタボ対策」を例に「ハイリスク・アプローチ」の限界を指し示す。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は、高血糖、高血圧、脂質異常症の3つのうち、2つが重なったものを指す。高血糖、高血圧、脂質異常症はそれぞれが独立した症状だが、このうち2つが重なると動脈硬化が著しく進行し、心臓病、糖尿病、脳卒中など様々な生活習慣病の発症リスクを高めるとされている。

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