「存亡の危機に直面する世界銀行とIMF」ハーバード大学教授 ケネス・ロゴフ

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IMF(国際通貨基金)と世界銀行で起こっている事態は、テレビの連続ドラマのように奇妙な物語である。

 2カ月前、ウォルフォウィッツ世銀総裁は、前代未聞の“スタッフの反乱”と“ガバナンスの崩壊”の真っただ中で、辞職に追い込まれた。続いて6月末には、IMFのロドリゴ・デ・ラト専務理事が「個人的な理由で10月に辞任する」と突然発表し、関係者を驚かせている。

 1人の国際金融機関の首脳を失うのは単なる不幸な出来事だが、同時に2人の首脳を失うのは軽率のそしりを免れないだろう。アジア金融危機から10周年を迎えた今、市場は不安定な状況に置かれている。資本市場は過剰流動性にあふれ、さまざまな陰謀説が飛び交っているのだ。

 公にされている事実が正しいとすれば、2人の首脳の辞任はくっきり明暗を分けたように思われる。

 ウォルフォウィッツ総裁が壮絶な戦いを経て世銀を放逐されたとき、世銀のスタッフは喜びのあまり我を忘れた。一方、ラト専務理事の辞任の報を聞いたとき、IMFのスタッフは意気消沈した。総裁就任前のウォルフォウィッツは、イラク戦争の立役者として、ロシア侵略を行ったナポレオン以来最も優れた戦略家であるとさえ言われていた。ラト専務理事は、16世紀以来、最大の経済的繁栄を実現したスペインの財務大臣であった。

 しかし、国際機関トップとしての両者の実績は対照的だった。

 ウォルフォウィッツ総裁の世銀は、アジア諸国の経済力拡大を織り込んだ組織改革を実施することはできなかった。他方、ラト専務理事は渋るヨーロッパ諸国に権限の一部を断念するよう説得した。IMFの為替相場管理の役割を明確にし、強化する改革を実現したのだ。辞任発表の1週間前、ラト専務理事は「為替市場への介入政策によって、国際経済の安定を毀損しかねない国を非難する権限がIMFにはある」と断言した。この政策の変更は、人民元相場を過小に維持するために大規模な市場介入を行っている中国政府を怒らせた。

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