通達で暗転、中国・ビットコイン取引所の嘆き 日本とは真逆、宴に取り残された幹部が告白

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「しかも今回の禁止通達は極めて不透明だ。“ICOリスク防止に関する公告”によって規制されたわけだが、仮想通貨と人民元の交換業務を禁止するという大ざっぱな話だけでいまだに細則は発表されていない。地方自治体の管轄当局が各取引所と水面下で話し合って、閉鎖させているのが現状だ。取引所の声明はいずれも当局の意向に従って、“自主的に”閉鎖するという文面なのだが、実際には協議の席で閉鎖を迫られた」

この取引所のウェブサイトに掲載されている業務停止の公告を見ると、「ICOリスク防止に関する公告の精神を全面的に実行するべく、国家政策に積極的に呼応し、10月31日をもってすべてのデジタル資産に関する取引業務を停止する」と書かれている。なるほど、通達に「呼応」し自主的に業務を停止するという体裁だ。

こうした不透明なやり口である以上、地方ごとの温度差も大きい。上海では仮想通貨関連のセミナー開催が認められたが、広東省では認められなかった。仮想通貨と人民元の交換取引禁止はマストだとしても、情報サイトやセミナーすらダメなのか。どのような業務が許され何が禁止されたのか。明確な線引きが不透明だとW氏は嘆く。

身の振り方が決まらない

チャイナリスクにさらされた中国の仮想通貨取引所、今後の身の振り方についてはまだ決められないままでいるという。

「これまで開発を進めてきた取引アプリなどを海外企業に売ろうという者もいれば、会社を海外に移転して取引業務を続けようという会社もある。また、保険や物流などブロックチェーン技術の応用に乗り出した企業もある。1~2年後には規制は緩和されると期待を抱いて冬を乗り切ろうとしているところも。わが社もそうだが、結論はまったく見えていない」とW氏は肩を落とした。

他国に先んじてブームが到来しただけに、情報サイトの充実ぶり、各取引所が開発したスマホアプリの使いやすさなど、中国の取引所は世界の先端を行く。だが、国家政策の急変によってその資産も使いどころを失ってしまった。日本を中心とした世界の仮想通貨の盛り上がりを、指を加えて見ているしかない。歯がゆい思いがひしひしと伝わってきた。

高口 康太 ジャーナリスト

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たかぐち・こうた / Kota Takaguchi

ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国の政治、社会、文化など幅広い分野で取材を続けている。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『中国「コロナ封じ」の虚実』(中公新書ラクレ)。

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