「教育困難大学」で大暴れする不良学生の実態 学ぶスキルも意欲もないのに入学できる現実

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彼は、ある授業の際、つばの大きい帽子を被っている男子学生を注意した。室内の正式なマナーとして帽子は脱ぐこと、階段教室ではないので後ろの学生の視野を妨げていることを伝え、不満げな顔をしてなかなか脱ごうとしない学生に何度か注意をした。

ふと思いついて、身体的に脱げない理由があるのかとも思い、そうであればその理由を教員本人にだけに伝えるようにとも話したところ、その学生は突然キレた。「うるっせなー、脱ぎゃあいんだろう!」と言い捨て、帽子を机にたたきつけて教室を足音高く出ていったという。

履修規定も単位認定の条件も理解できない?

さらに、この教員は別の学生とこんな一幕もあったという。最近は大学の出席管理は学生カードの磁気システムを機械に認証させて行うことが多く、この教員が勤めている大学もそうしている。しかし、これは不正が後を絶たないので、彼は指定席にして毎回出席カードを書かせている。問題の学生は授業に半分も出席していないのに期末試験はちゃっかりと受験した。当然、点数も低く、さらに大学では学期の授業の3分の2以上の出席が単位認定の条件にもなっているので、単位不認定となった。

すると、あるとき、その学生が廊下で待ち構えて、教員に単位を認めるように迫ったという。学生の点数やそのクラスの得点状況、さらに大学の履修規定も説明したが、その学生はなかなか納得しない。体は教員より2回りも大きい学生を前にして、教員は身体的な恐怖も感じながらも、単位は認めないという姿勢を崩さなかった。すると、学生は「くそ~」と大声を上げて回し蹴りを繰り出した。驚いた教員がよろけたので幸いにもキックはかすっただけだったが、廊下の壁に小さな穴が開いてしまったそうだ。

この話をしてくれた知人は、穏やかで学生思いの性格である。やる気のない学生もしっかり指導したいと考えているがために、トラブルも発生するのだろう。厳格な姿勢を示すからか、彼の下にはおとなしくて自己主張が苦手なタイプの学生が相談に集まってくる。表面化することを嫌がり詳しくは話さないが、学ぶ気のない学生たちからのいじめやからかい、暴力、試験前に授業ノートやテキストを奪われてしまうなどの被害を受けていることが感じられるという。

学ぶ気のない学生を大学の経営のために入学させてしまうことは、ほかの学生にとって悪影響以外の何ものでもない。高等教育の授業料無償化が検討されるつつあるようだが、このような学生も対象にしてよいか、大きな疑問がある。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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