ネットの高校「N高校」は教育界を変えるか 桜蔭出身者も「求めてたのはこれ!」と叫ぶ

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その一人、大野尚子さんは東大合格者数で全国の女子校トップに君臨する中高一貫の桜蔭に通っていた。大野さんによると、体調不良から通学がつらくなったのは中学2年の頃。ある時、医師に「受験一色になりがちな空気が合わなかったのでは」と言われ、息苦しさの理由がわかった気がした。

大野さんには、医師になる夢がある。両親はともに医師。日ごろから医療について話しているだけに、「精神疾患の診断には、脳波などの科学的データを取り入れるべき」「大好きな音楽を治療に役立てる方法を科学的に研究したい」など、見つめているのは医師になった先だ。そんな大野さんが欲しかったのは、進学のためだけではない学びだった。

「評価軸も急速に変化」

桜蔭高校に進まないことには両親も反対し、自身も最後まで迷ったが、N高の存在を知り「これだ」と確信した。今では必修授業のほか、アクティブラーニング型授業を複数選択。作曲の授業も受け、校外の作曲教室にも通う。そんな日々に「N校に来たからこそです」と大野さんも満足げだ。

まだいる。同じく桜蔭出身、小林優子さんの目標は「声優」という。放送部の活動で制作したオリジナルドラマで、声で演じる面白さに目覚めた。

アニメやゲームなどにのめり込み、中学では勉強がおろそかになったが、勉強自体は嫌いではない。「自分のペースで学びたい」とN高に入り、半年で高1の範囲のリポートをすべて終わらせた。N高で「ゲーム・アニメ・声優」授業の選択も考えたが、いまは大学受験を第一に考えている。志望校は「どうせなら東大かな」。大学生になったら声優養成所に通う計画だ。

個人と組織の関係性が変わる中、どこの組織に属するかよりも、個人が何をやりたいか、どんな才能を磨いてきたかが問われる時代だ。「学校で学ぶべきことや評価軸も急速に変化している」と奥平校長。それゆえN高は、個々人が強みを見つけ、伸ばせるよう徹底してサポートする体制となっている。

取材中に授業ものぞいてみた。ディスカッションで一番発言していたのは田邉快哉(かいや)さん。実はつらい中学時代を過ごしていた。生徒を「クズ」や「ゴミ」呼ばわりする男性教師が怖くて登校が苦痛に。学校全体を覆う同調圧力にも違和感を覚え、別室登校となり勉強も遅れてしまった。

自信を失う中で支えとなったのは趣味の動画編集。高校進学時に親が望んだ先は公立高だったが、N高なら中学の復習授業がある、大好きな映像の勉強もできると知って、両親を説得した。田邉さんは「僕ははっきり言って学校の勉強は苦手。だからこそもっと職業に直接つながる勉強がしたかった」と話す。

いま、田邉さんが授業で学ぶのは映像制作やプログラミングだ。学外では「フリーランス映像ディレクター」の名刺を手に、仕事の請負も始めた。「いまは毎日『楽しい』が更新されている」という。

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