山手線でプロレス!夢の貸切列車の舞台裏 東京駅も通過、ノンストップ1時間のお祭り

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通過する駅ホームの人々に向かって手を振る乗客。これは新宿駅(筆者撮影)

「まもなく東京駅を通過します。あの東京駅を通過する電車なんて、もう二度と乗れないかもしれませんよ!」

こうして車内を盛り上げる綱嶋さんの車内アナウンスもさすが30年のキャリア。最初はどこか不安げだった子どもたちも、興奮を抑えきれない子どもを諫(いさ)めるのに必死の親御さんも、気がついたときには一緒になってノンストップ山手線の“非日常”を楽しんでいた。

車内で手をつなぎ、輪をつくる参加者たち。ノンストップ1時間の旅ももうすぐ終点だ(筆者撮影)

東京駅を通過すると、綱嶋さんのアナウンスを合図に車内で参加者・スタッフが手をつなぎ、全員で1つの輪を作る。そして「幸せなら手をたたこう」をみんなで合唱。綱嶋さんの涙ながらの最後のあいさつが終わると電車は大崎駅に滑り込み、約1時間の「夢さん橋号」の旅は終わりを告げる。

「なんだかね、こうやってみんなが喜んでくれるのを見るとつい涙が出ちゃう(笑)。普段、通勤や通学で乗っている山手線の中で、1年に1度だけこうやって騒いで楽しむのもいいものでしょう。何度も乗ってくれるリピーターも多いんですよ」(綱嶋さん)

夢を与える手作りのお祭り

突然乗れない電車がやってきて、お祭り騒ぎの車内から手を振られた一般の乗客たちには申し訳ないけれど、確かに「夢さん橋号」の1時間は夢のような旅だった。大崎駅は、山手線の車両基地も隣接する文字どおりの”山手線の町”だ。山手線愛では誰にも負けない綱嶋さんたち主催者と地元品川区の参加者たちだからこそ、走らせることができる夢の山手線なのだろう。最初は緊張した面持ちで同乗していたJR東日本の社員たちも、旅が終わったときには一様に笑顔だ。

「このお祭りはね、大きな代理店とかイベント会社はいっさい入れていないんです。地元の商店会や住民、企業が集まって手作りでやっている。それでもこれだけみんなに夢を与えることができるし、楽しんでもらえる。本当に地域を盛り上げるお祭りって、こういうものだと思うんです」(綱嶋さん)

「夢さん橋号」が去った夕方の大崎駅のホームは、普段と同じ静寂を取り戻した。駅周辺の再開発が進み、利用者数の伸び率は山手線駅でも随一の大崎駅。そこを起点に、これからもたくさんの参加者の夢を乗せた「夢さん橋号」は走り続けることだろう。

鼠入 昌史 ライター

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そいり まさし / Masashi Soiri

週刊誌・月刊誌などを中心に野球、歴史、鉄道などのジャンルで活躍中。共著に『特急・急行 トレインマーク図鑑』(双葉社)。

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