「米ぬか繊維」は足のガサガサの救世主だった サッカー用靴下の大手が開発した機能性繊維

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鍋で靴下を煮込む(写真:鈴木靴下)

最初は、おでんのように鍋に米ぬかと靴下を詰め込んでぐつぐつ炊いてみました。しかし、干して乾燥してみると、付着した米ぬかが飛び散ってしまいます。

当時高校生だった長女の鈴木みどりさんは、その様子を見て「お父さん、どこかおかしくなったんやろか」と思ったそうです。

1年がかりで手作りの米ぬか靴下を完成させた

素人考えでは打開できないと考えた鈴木社長は、米ぬかの専門家で和歌山県工業技術センター化学技術部長(当時)の谷口久次さんに教えを請うことにしました。主要成分γ-オリザノールの効能や米ぬか成分の抽出方法を学び、1年がかりで手作りの米ぬか靴下を完成させます。

ようやく出来上がった試作品の靴下を約70人のモニターに履いてもらいました。「ツルツルする」「あったかい」といった期待どおりの反応に交じって、「数回洗ったら効果が薄れた」といった厳しい指摘もありました。

このアンケート結果を携え、谷口部長に紹介してもらった米油製造最大手・築野食品工業(和歌山県かつらぎ町)と紡績業者のオーミケンシ(大阪市中央区)を訪問し、協力を仰ぎました。試行錯誤の結果、繊維自体がスポンジ状で小さな穴があるレーヨンに米ぬか成分を保持させる技術指導を受け、業界初となる米ぬか美肌成分の練り込みに成功します。商品名は鈴木靴下の頭文字をとって「米ぬか繊維SK」と名付けました。

米ぬか繊維SK(写真:鈴木靴下)

この繊維を使った靴下は風合いもよく、約50回洗濯しても機能が持続します。2006年、「歩くぬか袋」として販売を開始しました。インパクトの強い商品名には、開発に懸けた鈴木社長の熱い思いが込められています。

早速、カバンに商品を詰め込み、東京の大手生活雑貨販売店に飛び込みました。しかし、会社はOEM生産が中心だったため、販売のノウハウがありません。何度も追い返され、ようやく担当者に会えても「一言で商品の説明を」と求められて返答に窮しました。

そこで2007年、モニター実験を民間研究機関に依頼。1カ月余りの着用で、皮膚の保湿効果があることが確認できました。アンケートでも「かゆみが抑えられた」「シワが気にならなくなった」などの好意的回答が数多く寄せられました。それらを踏まえ、キャッチコピーを「履くだけで、かかとスッキリ!」と決定。商品の特長を一言で表せたことで、東京、大阪の百貨店や雑貨店に置いてもらえるようになりました。

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