”本物になる”には30年かかる

名古屋で活動する男女デュオ「ETT」

愛知県蒲郡市という人口8万人ほどの地方都市に引っ越してきて1年が過ぎた。「去る者は日々に疎し」で、縁遠くなってしまった東京時代の友人知人も少なくない。しかし、物理的な距離が遠くなったからこそ、縁が強まった気がすることもある。わざわざ遊びに来てくれたり、「特産物」を贈り合ったりするときだ。田舎のこちらから贈るのはアサリや海苔などの素材が中心で、都会の人からいただくのは洗練された加工品であることが多い。

あるとき、東京・西荻に住んでいた頃の友人夫妻から「『テンカラ』聴いていると、大宮くんに案内してもらった蒲郡の風景が浮かぶのよ~」というコメントつきで、CDが送られてきた。名古屋で活動する男女デュオ「ETT(えっと)」のアルバムらしく、西荻でライブをした際に友人夫妻が大いに感動したらしい。名古屋の音楽情報を東京の人から教えてもらうとは……。

CDを聴いて、一気に引き込まれた。少しとぼけた感じの美しいメロディに乗って、幼い頃に大好きだった絵本で覚えたような懐かしい日本語がはっきりと耳に入ってくる。海や空といった自然の中に人間が一風景として描写され、悩んだり大志を抱いたり恋をしたりしている。人が少ないけれどいないわけではない蒲郡にぴったりの曲だと納得した。

ETTとは、主にギターを務める青柳努さん(45歳)とボーカルの西本さゆりさん(36歳)の2人。ともに作詞作曲をしているらしい。名古屋・大須にある静かなカフェで話を聞くことにした。

ライブ会場で話しかけ、撮影は苦手という2人に無理矢理笑ってもらいました

――CDで感動して、先日はライブも聴いて、勢いで会いに来てしまいました。ビジネスマン向けの媒体なので、忘れないうちに商売についてお話を伺ってもいいですか。

青柳:稼ぐと言えるほど稼いでいないですよ。僕はCMや劇音楽を作ったり、ギター講師などもやっていますが、死なない程度にしかなりません。普通の人からすると不安で死にそうなレベルでおカネがありませんから。

30代の頃はホームレスでした。でも、社会のシステムから外れると出てくる力もあり、必要な人に会えることを知りました。今、仲間の力を借りて畑もやっていて、野菜に関しては自給自足できています。

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