住みやすくないけど人気「横浜」の圧倒的引力 「住みたい街」と「住みやすい街」の違いは?

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戸田市、と聞いて、どんな街か明確にイメージできる人はそう多くないだろう。広告自体も「水と緑あふれるまちで、心やすらぐ毎日を」といったような、どこのまちにも当てはまりそうなものだった。戸田市に限らず、都市近郊のベッドタウンの多くは、似たようなコピーを採用していると思われるが、広告を出す自治体が少ないうちはこの戦略も効く。実際、戸田市ホームページはこのプロモーション後、以前の17倍のページビューを稼げるようになったという。

だが、今後首都圏で人口が減り、住民の奪い合いが始まれば、水と緑では勝てない。そのときには、何を売りにすればいいのか。

流山市のすごいところ

手作りの地図でプレゼンに臨んだ流山市(写真:筆者撮影)

答えとして参考になるのは、ほかの4市に比べ、既存の独自コンテンツが少ない流山市のプレゼンにあった。

面積、人口ともに他4市よりはるかに小さく、歴史がないわけではないが、他市ほどに有名ではなく、ランドマークとして知られた施設があるわけではない。そこで、遊びのプレゼンでは子どもたちの遊びを独自に支援する多くの市民団体があることを売りにした。いわく「流山市は遊びのシリコンバレーだ!」。

また、周辺企業が少ないため、求人倍率が低い流山市は、ライフスタイルに合わせてシェアサテライトオフィスで働いたり、時短、あるいは子連れなど多様な働き方できる点を挙げ、「流山市民は働き方のデザイナーだ!」と標榜。しかも、プレゼンターはそうした働き方を実践している夫婦だけに、説得力がある。

同市のプレゼンからわかるのは、アピールするものが少ないのなら、住んでいる人が新しい独自の文化やスタイルを生み出せばいいということだ。それを民間ならではの言葉で伝えれば伝わる。それが大都市以外のまちの生き残り策となっていく。それが可能かどうかは住んでいる人たちの考え方や、行政の施策などによるが、水と緑よりは差別化が図れるだろう。歴史や施設に恵まれた大都市以外では、その道を模索したほうがいいのではないか。

ところで、イベントのタイトルにバトルとあり、当初は順位を付ける予定だったが、最終的に順位はなし。企画を詰める中で、バトルは盛上げるための手段で、順位は目標ではないとの意見が出たためだ。実際、海の楽しさと子どもとの外出の楽しさに優劣はつけがたい。

だが、せっかくなので、私が独断と偏見で評価する。意外性トップはデータの使い方がうまく、歌舞伎メイクのプレゼンターが印象的だった千葉市。団結力、プレゼンのうまさでは川崎市だ。傲慢さでは東京都も神奈川県も領地と言い切ったさいたま市。独自性トップはやはり流山市。一方、子ども世帯に楽しいインナーシティがあり、中小企業支援に独自施策があることは印象に残ったが、横浜市はそつがなさすぎた。自慢すべきものがありすぎるまちの悲哀だろう。

初回が好評だったため、来年同時期に2度目の開催という声もあり、川崎市では市内で出場者予選会を開こうという話が出ているそうだ。関西でもやりたいという自治体があり、関東vs.関西も面白いことになりそうだ。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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